星空に触れて-89-

あのとき、オフィスを飛び出したとき、具体的なことは何も話さなかった。
混乱していて、それどころではなかった。
あのあと一度だけ掛かってきた電話も、気持ちが先走ってどうすることもできずに、泣いてしまって出られなかった。

今なら───。

話が出来るかもしれない。
何もかも諦めることにしたのだから、どんな辛い真実を聞かされても受け入れられるかもしれない。
そしたら、本当に忘れられる。
今度こそ、取り返しがつかないくらい傷つくかもしれないけれど、それで終わりにできる。

『聡示のことは信用できない?』
ふと真島の声が蘇った。

僕だって、本当は、ずっとそれが知りたかった───。

上総はそっと携帯を手にとって、野崎の番号を表示させた。
メモリーから呼び出したはまでは良かったが、いざ掛けるとなると勇気が出ない。

番号を交換した後は、電話もメールも結局一度もしなかった。
メールを送ったのは一度だけ。
野崎に送ってもらった車の中で、野崎に自分の番号を知らせるためだけに送った、その一度きり。

あの時と今では、あまりにも事情が違う。
電話をして、最初に何を言えばいいのか?
第一、野崎と自分は何でもない関係なのだから、電話したところで何もかも話してくれるとは限らない。

メールで、いいかな・・・。

【聞きたいことがあります】

それだけを本文に書いて、上総は送信した。
聞きたいことが、山ほどある。
うやむやに記憶の底へ葬り去るには、自分も家族もあまりにも傷ついていた。

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