星空に触れて-82-

「では、私から」

最初に口を開いたのは甲斐だ。
甲斐は法務のプロで、野崎の会社の法務部で随一の実力を誇っている。
野崎よりも2歳年上だが、序列の都合上、肩書きが付かないでいた。
真島ほどではないがそれなりの優男で、何よりも人望が厚い。
部署を問わず、取引先からも一目置かれている男だ。

「断言できる範囲で申し上げますが・・・」
甲斐が1つ息を吐いて、周りの全員に視線を巡らせる。
「過去4年に渡って時田が外部に発注したプロジェクトのうち、5千万以上2億以下の利益を計上した物の中の約3割で、何らかの操作をした形跡が認められました」
甲斐がプロジェクタに書類を映し出す。

「その3割のうちの約8割はマンションで、土地評価、資材、販売を請け負った業者が同一です」
甲斐が頷きながら野崎を見る。

「甲斐さん、こんな短期間ですごいな。こっちの材料しかないってのに」
真島が感心したようにつぶやく。

それもそのはず、
プロジェクトとしても会社の決算報告としてもとうの昔に完了しており、公の団体からの調査も済んだ案件を対象に調査をしているのだ。

どれだけ綿密に周到に工作されているか、想像するだけでも溜息が出る。
それなりの経験を積んだうえで、膨大な資料の隅から隅までを漏らさず読解する鋭い鷹の目がなければ実現できない。
手当たり次第に調査したところで、ただの徒労になるだけで、第一それでは時間が足りない。

「建築確認で何度か手入れが行われたものが思いのほか多い気もしましたが・・・まぁ、想定の範囲内というところでしょう。」
甲斐はプロジェクタに映し出す資料を順に替えながら、落ち着いた口調で説明した。


「本当に!普段どおりにお仕事しながらこんなことできるなんて、すごいです!さすがです!」

目を爛々と輝かせて甲斐に尊敬の眼差しを向けているのは、水元だ。
水元は経理を担当している。
28歳という業界では若年齢ながら、その数字に対する類まれなるセンスを買われてこのプロジェクトに引き抜かれた。

いつもはオドオドしていて生来の天然キャラを炸裂させているが、仕事となると変貌する。
仕事ぶりは、さながら『羊の皮を被った狼』だ。

「はいはい、ちょっと落ち着きなさい。」
隣に座っていた真島が、興奮気味の水元の頭をガシガシと掻き混ぜる。

子供のように諌められてジダバタとしている水元と、それを笑いながらさらに弄ろうとする真島の存在を視界から消し去ったかのように、3人目の男が身を乗り出した。

「甲斐さん、このことは法務の方は・・・?」
銀色の縁の眼鏡を押し上げながら、藤堂が聞いてくる。

藤堂は専属の弁護士で、短髪と長身がスポーツマンを思わせる風貌だ。
この場に居合わせた中でも一番の長身で、さながら威風堂々といった存在感がある。

「これだけ調査してやっと掘り当てました。一見すると何の問題もないものばかりですし、実際に公の機関で承認されたものです。なにしろもう何年も経っている。他の人間にはそう簡単に分かるものではないでしょう。ただ―。」
そこまで言って、甲斐がぐっと真剣な表情になる。

「法務にも、居ます。でなければここまで簡単に書類が通せるはずもない」
甲斐は全員に目をやった。

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