星空に触れて-63-

もしかして、野崎は何もかも把握していたのかもしれない。
そんなことが頭に浮かんで、上総は辺りが暗闇に取り込まれたような錯覚を起こした。

「時田───。なぜ、その名前を知っている?」
その名前を上総が口にすると、野崎はぐっと目を眇めた。
その眼差しは氷のように冷たくて、喉元に刃を突きつけられるような勢いさえ感じる。

野崎が1歩、上総のほうへ足を進めた。

「来ないでくださいっ・・・!」
上総は掠れる声で言い放った。

ゆがんだ視界に目を凝らしていると、やがて頬に熱いものが流れ落ちていった。

「どうしてっ・・・ッ」
野崎から離れるように、上総は1歩退いた。
退いた振動につられたように、また一筋涙が落ちていく。

伝いこぼれた雫を見つけて、野崎の表情にも深い翳りが堕ちた。


聡示さん、どうしてっ。
僕は 信じられない・・・。

「全部 分かってたんですか・・・っ?」

あれだけの大型マンションを建設する計画なら、ずっと前から分かっていても不思議ではない。
第一、野崎は上総を家の近くまで送っていったことがある。

この建設計画をずっと前から野崎は知っていたのだとしたら?
上総の家族があの土地に住んでいて、いずれその土地を買収することも計画済みだったのだとしたら?

考えただけで、全身に寒気が走るようだった。


「時田をどうして知っているのか、答えるんだ」
上総との距離をまた縮めようと、野崎が1歩 前へ進む。

これまでに見たことのない帝王然とした野崎の貫禄に、上総は竦み上りそうになった。
いつになく低い声は重石のように上総の動きを封じて、さらにその冷たさで凍りつかせる。

「なんで僕に聞くんですかっ・・・っ」
自分の会社の人間が、時田がやっていることをどうしてわざわざ言わせようとするのか。
野崎の考えていることなんて分かりたくもなかった。


それでも、絶対に負けまいと必死になるのに、気持ちとは裏腹に完全に迫力負けしてしまっている。
野崎から距離を取ろうと後ずさる上総は、おぼつかない足取りのせいで 尻餅を着きそうになった。

崩れそうになった上総の体をすかさず野崎が支え上げて、そのまま壁に押し付けられる。

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