星空に触れて-60-

聡示さんが好き…。

上総は心の奥が満たされていくのを感じていた。

「こっちに来て。いいものがある。」
耳元から流れ込んだ優しい声が、上総の心に浸透していく。
ゆっくりと身体を離すと、野崎は上総の腰に片腕を回したまま奥までエスコートする。

「これ。今度僕がやる仕事なんだけど。」
奥にある立派なデスクの後ろまで連れて行かれると、脇に置かれた作業用のサイドテーブルの上に
2メートル四方ほどの真っ白な模型があった。

「プラネタリウムなんだ。」
「えっ!」
上総は思わず声を上げてしまった。
「本当ですか!」

慌てて振り返る上総に野崎は優しい微笑みで応えると、今度は背中からふわりと抱きしめてくれる。
「喜んでくれる?」
そんなことは確かめる必要もないのは分かっているくせに、わざわざ言葉にして聞いてくる。

すごい!プラネタリウムだなんて!

上総はドキドキする鼓動を感じながら、その真っ白な模型をまじまじと見た。

ドーム型の屋根は緩やかな波の形になって両脇に延びている。
正面の大きな噴水を花と緑が囲み、門から伸びる石畳のスロープが落ち着いた雰囲気を湛えていて、
それはまるで天の川のようだ。

目に浮かんでくる。

大勢の人達がここを歩いていくんだ……。

「すごい!すごいですっ。いいなぁ…。」
上総は心が躍った。
知らずに目は色とりどりの輝きを見せて、感嘆のため息が次々に零れた。

「この計画があることを知ったとき、すぐに君のことを思い出したよ。
居ても立ってもいられなくて、このプロジェクトを部下から奪ってしまった。」

『酷い上司だと叱られたんだよ』と苦笑しながら、上総の顔を覗き込んでくる。

「来年の夏には完成する。ここで働いている君が見れたらいいな。」
野崎も模型に目をやる。

一度だけ、戯れの会話の中でしか言わなかったことを覚えていてくれたことが嬉しくて、
だから余計に、余計に・・・泣きそうになる。

「でも、僕は…。」

その夢は、追えなくなった。

大学は、辞める。
後期を出なければ必要な狙っていた課程が取りきれず、論文も完成できない。
目指していた進路では基準に満たず、採用の対象から外される。
志半ばで諦めなければならなくなった事実は、こんなにも痛い。

「どうした?」
急速に沈み込む上総の様子を気にした野崎が、また覗き込んでくる。
左手が頬に添えられて、指先でそっと撫でられる。

「うん?」
野崎は上総を抱きしめていた腕を少しゆすった。
俯いたまま返事をしない上総を気遣って、
野崎の声は返事を促すようにさらに柔らかくなった。

「大学は、辞めることにしました。できるだけ早く就職しようと思って、
だから僕は、もう…この勉強はしないんです。」

言葉にして、それを自分の耳で聞いて、上総は自分の考えていることがどんなに悲しい現実なのかをかみ締めた。

胸が・・・。胸がはちきれそうだよ、聡示さん・・・。

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