星空に触れて-5-

「槙ちゃんを見てるとさ、何だかぽかぽかしてくるんだよねぇ。」
カウンターに戻った上総に、ハンチングさんが笑いかける。

「そうですか?うーん。あまり実感はありませんけど…。自分では自分のことは良く分からないのかな。ぽかぽか、ですか。」
シンクに洗い残してあったサーバーとミルクポットの片付けを再開して、上総はカウンターに少しだけ残っているワッフルの香りを追いながら応える。

「私達はね、もうずっと槙村君のファンですからね」
ポールさんがハンチングさんに相槌を打ちながら続いた。

「ま、自覚がないもの槙ちゃんらしいってことで」
と黒田も乗ってくる。

「うーん、じゃぁそういうことにしておいてください」
と肩をすくめて上総が言うと、周りの3人は思い思いに笑った。


 店にやってくる客にあだ名をつける習慣は、バイトを始めて1年目頃から上総が勝手に始めたことだった。

常連ともなると、客同士が自然と会話をしてみたり、時にはマスターの黒田を介して結構な人数で盛り上がったりするのだが、お互いの素性や家庭の事情といった込み入った情報はあまり明かさない、暗黙のルールのようなものが存在している。

そのため、名前すら知らない客が多すぎて時々会話に困ってしまったからだ。その頃はまだ、上総が黒田と話をするのに一時的にやっていた遊びのようなもので、上総と黒田の間にだけ通じる暗号のようなものだった。

しかし、その会話を耳聡く聞きつけた常連客が大いに興味を示して盛り上がってしまい、やがてとんでもない尾ひれを付けられた。

四年近く経った今では、『上総によってあだ名を付けられている=黒田のお墨付き=フロート公認の味の分かる良質な常連である』という位置づけがされている、という噂話が出回っている。

その証拠に、上総は『私には名前を付けてもらっていますか?』と興味津々に尋ねられたことが何度もある。
さながら『Sir』の称号である。


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