星空に触れて-56-

「そんな!きっとお爺ちゃんとお婆ちゃんしか居ないのが分かってて来たんだよ、ひどいよっ!」
上総はその男が置いていったパンフレットと名刺を手にした。



「なんの相談もなしだなんて、そんな一方的なのないよ!」
いつも温厚な祖母が憤りを隠せなかったのも無理はない。

力無い祖母が一人で男達と対峙した姿を想像すると、胸が締め付けられる。

「お婆ちゃんは悪くないのに、怪我させるなんてっ・・・」
大切な祖母に怪我を負わせた男の姿を想像して、上総は次から次へと怒りがこみ上げるのを感じた。

「お婆ちゃんにこんなっ・・・」
せめて一緒にいてあげられれば良かった・・・。

「とにかく、この話は自治会長さんにでも相談してみるさ。いくらなんでも同意しないことには、何もできはせんよ」
祖父は上総の頭に手を置いて、『心配は要らない』と静かに言った。


部屋に戻った上総は、今日一日のことを思い出した。
帰ってくるまでは天にも昇る心地だったのに、帰って来たとたんに奈落の底へ堕ちた気分になった。
ため息ばかりが出て、いつまで経っても眠れそうにない。

パンフレットのマンションと、見積もり金額と、男の名刺だけが交互に頭に浮かんできて、上総は鬱々とした気分のまま目を閉じた。





翌朝目が覚めると、上総はハッと飛び起きて祖母の姿を探した。
寝ぼけたまま、急いで階段を下りる。

「お婆ちゃん?お婆ちゃん?」
声を掛けながら台所へ向かうと、祖母はいつものように朝食の準備をしていた。

「かずちゃん、おはよう」
おっとりとした笑顔に少し安心して、隣へ寄る。

「手伝うからね。取るものがあったら言って」
上総は腕まくりをして祖母の隣に立った。

「その前に。かずちゃん、顔を洗ってらっしゃい。寝癖もこんなにして」
祖母は上総の髪の毛を撫で付けるようにしながら、笑った。

「ご飯食べてからで良いよ。シャワー浴びてから出かけるから大丈夫」
昨日の一件が頭の中を支配しているせいで、今は祖母の側を離れることがどうしようもなく不安でたまらない。
祖母の手が優しくて泣きたい気になってくる。

「そうなの?じゃお茶碗とお皿揃えてちょうだいね」
祖母はそれ以上何も言わず、上総の気遣いを受けていた。



いつものように朝食を3人で食べて、シャワーを浴びて着替えた上総はバックを持って玄関へ向かう。

「じゃ、行ってきます。知らない人が来ても、開けちゃだめだよ?ちゃんと確認してね。お洗濯は残しておいても良いんだよ」
まるで小姑のように言う上総に、祖母は笑顔で頷いた。

「ありがとう。かずちゃんも気をつけてね。いってらっしゃい」
いつものように見送られながら、上総は玄関を出た。

道路まで出て、ふと家を振り返ってみる。
この家で、家族3人ずっと温かい生活を続けられると思っていた。

いままでどおり、ずっと心穏やかに暮らしていけると思っていたのに。
何とかしないと・・・。

上総はぎゅっとこぶしを握って前へと歩き出した。


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