星空に触れて-43-

車に乗り込むまで、野崎は何も言わなかった。
沈黙は続いたけれど、急浮上した自分の感情を解きほぐす時間ができて、かえって好都合だった。

本当は・・・。
本当はあの店で、野崎さんが来てくれるのを、いつも楽しみに待っていた。

ドアが開くたびに、その姿を探していたことも今更ながらに自覚する。
大人の余裕でからかわれて、優しい笑顔を見せてくれる時間が、待ち遠しかった。
短い会話しか交わせないのを、いつも残念に思っていた気もする。

あの店でたった一人、ただ歳が近いだけの存在であれば、
こんなにも忙しなく心が動くはずがない。
でも、この思いの種類はなんなのか・・・。
精一杯考えを巡らせても、結局答えは見つからない。

それと同時に、上総はその答えが出ることを恐れ始めていた。
この先を突き詰めることで、何かを失ってしまう気がしてならない。
そう思うと、不安が募って怖くなる。
そんな暗い考えに支配されてしまって、上総は隣にいる野崎の存在さえ怖くなっていた。


二人だけの空間は、今の上総にはとても苦しいものに変わってしまった。


帰らなきゃ。このことは、考えちゃいけない・・・。
これ以上一緒に居たら、息が詰まる・・・。


上総は小さく深呼吸して野崎のほうを見た。
「あの・・・。野崎さん、僕帰りた───」
「待って」
帰りたいです、そう告げる前に野崎から止められてしまった。

野崎は短く言って、そのまま車道を見つめている。
その横顔は、ずっと先の何かを見据えているようで、いつになく鋭い。

その目を見ていると、答えが出せずにいることをなぜか責められているような気持ちがして、
上総は沸きあがる不安に飲み込まれそうになった。

帰らなくちゃ、早く・・・。

「やっぱり、あの───」
「もう少し、だから」
そう言って今度も途中で遮られる。

それ以上野崎を説得できる自信もなくて、上総は力なく頷いた。
膝の上に置いた両手を見つめてシートに身を預けながら、今にも溢れそうな不安と戦う。


もっと早く気付いていれば良かったのか、ずっと気付かずにいるほうが良かったのか。
どちらにしても、自分の中の野崎は、もう昨日までとは違う人になってしまった気がする。

もうずっと前から、自分の意識はいっせいに野崎へ向かっていたことは明らかなのに、
自分ではそれを認められない。
その気持ちの正体が何なのか、気付くことが怖くて足がすくんでしまう。

だからといって、そのことを心に秘めたまま、誤魔化しながら、
今までのように野崎と向き合うことができるとは思えなくて・・・。


「着いたよ」
やがて車はスピードを落して、運転席の野崎が静かに告げた。


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