星空に触れて-36-

野崎はとても話題が豊富で、一瞬たりとも上総を退屈させない。
世の中のことに疎い上総には、野崎が話す全てのことが新鮮で興味深くて、自然と野崎に引き込まれていく。

「最初に話し掛けてくれたときのこと、覚えてる?」
自分としては忘れてしまいたい過去を蒸し返されて、居心地が悪くなる。
「あ、あれですか・・・。失敗しちゃいましたよね、僕」
忘れもしない、アイスコーヒー事件だ。
「あれはね、ちょっとした賭けだったんだよ」

「賭け、ですか?」
聞き返しながら、上総は何とはなしに料理を見渡した。
いつの間にか、上総の舌に合うものは近くに、そうではないものは野崎のほうへ移っている。
同じように話をして同じように盛り上がっていたはずなのに、野崎はしっかりとそんなことまでやっていた。
それに気づいて、何となく気恥ずかしくなりながらも、野崎の会話を追いかける。

「何かに負けちゃったんですか?」
「どうしてそう思うの?」
おもしろそうに野崎は聞いてくる。
「野崎さんは、いつもコナを飲んでいましたよね?」
「そうだね」

野崎の相槌は心地よい。
急かすでもなく、すげなくあしらうでもなく、むしろ言葉の続きがスムーズに引き出されているような気さえする。

野崎は上総のどんな言葉の1つも逃さないように耳を傾けてきた。
上総と話をしているのが、本当に楽しそうに。
それが伝わってくるので、上総も野崎と話をするのが楽しくなってくる。

そうやって時間を過ごしているうちに、上総は野崎と一緒にいることがとても楽しく思えてきて、
それは野崎にも伝わっているような気がしていた。

野崎はくだけて笑っていているときも、どこか遠い目をして静かに話をしているときも、
やっぱりあの名前に違わずハンサムだと思った。

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