君と夜空と真夏の花火-10-

第9話

「上総にはもう恋人がいるのか、それとも誰か・・・好きな人がいるのか、そればかり考えてた。
 そんな事は、絶対に受け入れられないから、早く僕に気づいて、僕の気持ちを知って欲しかった・・・」 
真剣な眼差しをして言った野崎の頬に、上総は手を触れさせた。

もう、いっぱい・・・。
片思いの野崎の切なさも、野崎に触れて欲しくて待っている切なさも、もういっぱい。
どうしようもなく心が疼いた。
これ以上は もういらない・・・。

「聡示、さん・・・」
どきどき して止まらない鼓動に急かされながら、首から上を真っ赤に染める。
熱に浮かされている時以外は 自分からする事なんてほとんどなくて、して欲しくても口にできない。

届いて───・・・。
真っ直ぐに、じっと見つめてくるだけの野崎の唇へ、上総は唇を重ね合わせた。
もっと側で野崎を感じたくて熱を上げている心と身体。
気づいて欲しくて、上総はそっと野崎の唇を啄ばんだ。
触れていると益々恋しくなる。
触れても触れても恋しくて、どこまで行ったらいいのか 分からない。

「聡示さん・・・」
目を開けて、上総は潤む瞳を凝らして野崎を見上げた。
体じゅうが熱くてドクドク打ちつける鼓動は苦しいくらいなのに、
それでも恋人は、ただじっと見つめ返してくるだけ・・・。
聡示さんは・・・違うの・・・?
深い色をさせた瞳で見つめながら、野崎はただ優しく上総の髪を梳いていく。
僕は・・・、もうずっと待ってるのに・・・。

「僕、・・・」
直ぐに触れて欲しくて、同じ思いでいて欲しくて、早くぴたりと一つになりたくて・・・
精一杯の思いを伝えようとしたキスは、きっと挨拶くらいにしか届いていない。
赤くなった顔がさらに赤く色づいた。
・・・そういう気持ちでいるのは、僕だけ・・・。

ただ静かに、眼差しで応え続ける恋人を見ていられなくなって、上総は野崎の腕から起き上がった。
ベッドの縁まで急いで這っていく。
「上総」
野崎が直ぐに追いついて、上総の腕を引き留めた。
「どこいくの」
「・・・トイレに、・・・」
赤くなった顔を見られたくなくて、上総は背を向けたまま答えた。
膨れた熱は収まってくれそうに無かった。
すぐに立ち上がろうとしたのに、腰から強引に引き戻されてしまう。
「トイレ、・・・っ」
「体、熱いね」
とても恥ずかしくて それ以上に切なくて、上総は野崎に背を向けたまま手をばたつかせた。
けれど暴れる腕はあっさりと抑えられて、そのまま後ろから野崎に抱き込まれてしまう。
「・・・僕がいるのに・・・何しに行くの」
腰を抑えていた野崎の指が上総の中心にツっと触れた。
形を変えたそこが指に反応してピクリと震える。
「・・・嫌だ、・・・っ」
一人だけ冷静な野崎の声が、はしたない自分の身体を責めているようで、上総は声を震わせて体を捩った。

すると、ふいに、

「・・・今日初めてのキスだ」
野崎が上総の体をこれ以上ないくらい抱きしめて、ぽつりと零した。
「・・・もうずっと、上総に触れてない・・・」
いつになく切ない声に、上総はぴたりと抵抗を止めた。
野崎が額を背中に押し付けているのが分かる。
「・・・僕は今日も明日も・・・、ずっと触れられないの・・・?」
ぴたりと背中に張り付いた野崎から、今にも泣きそうな声がした。
もう、ずっと泣いてしまいたい気分でいるのは自分の方。
「だって、聡示さんが、っ・・・!」
ずっとずっと、待ってたのにっ───。
力強く抱きしめられる腕の中で、上総は無理やり後ろを向いた。

「ぇ、っ・・・」
そこに・・・・・・
本当に、今にも泣いてしまいそうな 切ない顔をした野崎がいた。

「僕が、何?」
「だってっ・・・、」
だったら、いつもみたいに してくれたら良かった。
すごく、すごく楽しみにしてたのに。
思わず責めるような視線で野崎を見上げてしまう。
「・・・上総の方から、僕を求めてくれないのは・・・ どうして・・・?」
「ぇ・・・」
「・・・僕がお願いしないとダメ?」
野崎にじっと瞳の奥を探られる。

「僕が待ってたら、上総もずっと、待ってるの? それで、今みたいに・・・一人で・・・」
「それはっ」
上総は思わず顔を俯けた。
「僕が言わなきゃ、僕達は愛し合えない?」
俯けた上総の顔を野崎の手がそっと上向ける。
「上総は・・・そういう風に思ってくれていない・・・?」
「・・・そんな、ことは・・・ないです」
上総はフルフル頭を振った。

ずっと楽しみにして、ずっと待ってた。
そう思っていたから、恋人だって同じ気持ちだと信じていたから、だから、ずっと・・・。

「僕は上総のものだって、言ったのに」
「ぁ・・・」
「忘れないでって、言ったのに・・・」
消えてしまいそうに微笑む野崎を見て、上総はハッとした。

いつだって恋人の近くに居たくて、いつだって触れていたくて、いつだって求めてくれるのを待ってる。
僕は聡示さんのもの ────。
そう思ってる自分の気持ちがそうなら、恋人だって、いつも ────。

「でも・・・僕は・・・・・・、聡示さんとは、違う・・・・・・」
そういう事を、どうやったら上手く伝えられるのか・・・わからない。
いつもしてくれるみたいに、魔法に掛けられるみたいにスマートになんて、僕にはできない。
「それは違う、上総」
野崎は上総の両手を取って、言い聞かせるように強く握った。
「僕は慣れや経験で上総を気軽に抱いてるんじゃない」
ピシリと言い切って、野崎は上総が頷くまでじっと待つ。

「シンガポールへ行ってる時も日本へ帰ってからも、僕は上総と居られる時間が1秒でも惜しかった。
 限られた時間の中で上総のそばにいる為には、何かを待ってる余裕なんて無かった」
いつも優しい瞳は少しだけ潤んで輝きながら、上総の視線を絡め取った。
甘い告白は、静かに続く。
「僕はやっと上総に気持ちを伝えて、上総も受け入れてくれたけど、今だって、僕が上総に逢える時間は週末だけ。週末だって、ほんの少ししか逢えない時もある。やっと逢えた、週末なのに・・・」
野崎の手が何度も上総の手を揺さぶった。
今度は野崎が、上総を責めるような目をして見つめてくる。

外泊は気が引けて、今でも日帰りで通う週末がある。
送り届けられるたびに、恋人の寂しそうな瞳に見送られた。

一人こだわる姿を黙って許しながら、それでもきっと、野崎は今でも割り切れない思いを抱いている。
そんなつもりではなくても、気持ちを疑ってしまう時だって、きっと・・・。

「あの頃から、今だって、僕は迷って躊躇ってる時間さえ惜しい。
 そう思っているから、だから僕は上総の気持ちを信じて、いつだって・・・」
野崎の瞳が、優しい色の奥にほんのりと炎を点した。

逢えば いつも求められて、その度に野崎に応えて、
拒否したことが無いのは同じ気持ちで待っていたから。
でもそれを、自分から伝えた事はほとんどない。

「だけど上総は・・・、そうじゃないの?」
何も言わない恋人を求めるには・・・、野崎にだって抵抗があったのかもしれない・・・。

それでも、恋人がいつも情熱的なのは、
恋人が、いつだって自分の気持ちに正直なのは・・・
僕が同じ気持ちでいる事をいつも信じてくれているから。
「僕もっ・・・、聡示さん、僕もっ・・・」
嬉しくて、上総は優しく微笑んで首をかしげた野崎の胸に飛び込んだ。


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