君と夜空と真夏の花火-9-

第8話

ぼんやり目を開けて、目の前の景色がはっきりするまで、何度か瞬きを繰り返す。

「上総・・」
窓からは、もう朝日が差し込んでいた。
いつもの週末の朝と同じ恋人の腕枕の中。
抱き込まれるように向き合って、時折 柔らかく唇が額に触れていた。

「僕・・・」
眠って、しまった。
「いいんだ。僕が、たくさん話をしたから・・・」
野崎はいつもの優しい声で微笑みながら言ってくれる。
右手で髪を撫でて、押し当てるように 何度も唇で額に触れる。
「・・・ごめんなさい」
上総はため息混じりに ぽつりと 言った。

─── 本当は謝りたいんじゃない。

あんな切ない気分で1日中過ごすなんて思ってなかった。

先に好きになってくれたのは野崎かもしれない。
それでも今は絶対に、同じくらいに想ってる。
たった1週間でも、1日でも1時間でも、同じくらいに恋しく想ってる。

だから 夜になったら いつもみたいに・・・・たくさん触れてくれるんだと思ってた。

一緒に熱を感じて、情熱的な声をいくつも聞いて、幸せな気分でぴったり1つになって、
逢えなかった分だけ たくさん触れて、たくさん・・・ 愛してくれると思ってた。
・・・ そうして欲しかった。

この連休、ずっと二人きりでいられるのを すごく楽しみにしてたのに・・・。

「ううん、いいんだ」
髪を撫でていた手に、今度は優しく背中を抱きしめられる。

大好きな匂いに包まれると 体の奥の妖しい炎が 勝手に反応してしまいそうだった。
腕の中で思い出すのは 熱く蕩ける二人の時間。
吐き出された ただの息を 髪に感じるだけでも、すぐに どきどきしてしまうのに・・・。

いつだって・・・待ってるのに・・・。

「起きようね、外でご飯食べよう」
「・・・はぃ」
野崎の腕に抱き起こされて、二人は一緒にシャワーを浴びた。


◆=◆


ドライブで一日を過ごして、今度こそ大人しく、二人は約束の花火を見た。
お腹の中まで響く音と、夜空を大きく包み込む輝きの大幕。
何色にも発光した粒が空いっぱいに広がって、夏の大空は宝石のキャンバスだった。

「きれいだったね・・・」
初めての花火は 壮大で鮮やかで華やかで、・・・ 切なかった。
本当は、途中からは何も見てなかった。
花火の光を受ける恋人の横顔ばかり見ていた。
「すごく、きれいでした・・・」
優しい笑顔で振り向いた野崎に、上総は同じように微笑んで返した。

うまく笑えたか 自信がない。

そうやって振り向いて見せてくれるただの笑顔にだって、いつも どきどきしてしまう。
どきどきして、すぐに側に行きたくなる。
体のどこか1つでも触れ合わせて、もっともっと恋人を感じたくなってしまう。

そう思ってるのは・・・僕だけ・・・?

恋人は、今日もいつもと変わらない顔をして微笑んでいた。
すごく大人で、優しくて、いつものように段取り良く楽しませてくれた。

・・・ でもそれだけじゃ 絶対に満たされない。
身体の奥がずっと切なくて、もうずっと・・・ 待ってる・・・。
深いキスだって、まだ1度も もらってない。

聡示さんは、違うの・・・?

「お風呂入ろう?」
野崎の優しい手に手を取られて、二人は今日も露天風呂へ入った。


◆=◆


上総が選んだのは今日もベッド。
逢えない時間をいつも二人で一緒に埋めて、満たされた気持ちになれる、いつものベッド・・・。

だから、今夜は・・・。

「時間がある時には、必ずフロートへ行ったんだ」
ベッドへ入ると また野崎の腕枕に包まれて・・・、昨夜と同じように話が はじまった。

「上総は大学生だった。あの大学へ通う4年生」
野崎のきれいな指が優しく髪を梳いていく。
ときどき頬を撫でながら、手のひらで包まれて、上総はますます切なくなった。
その指がくれる熱を、体のあちこちが思い出す。
少しイジワルで、とても優しくて、 『愛してる』 がたくさん詰まった野崎の熱。

「あの店の客やマスターにとても大切にされていて、上総もあの店を大切にしてた。
 上総はいつも、一生懸命で、いつも、楽しそうだった・・・。すごく・・・、ずごく可愛かった」
囁いた唇が 額に触れる。
ちょっとだけ濡れた感じがして、身体がぴくりと小さく跳ねた。
その唇がどんなに情熱的で 優しくて甘いのか・・・、思い出して体中が反応してしまう。
「少しでも必ず時間を作って、フロートへ行った。次に上総に逢えるまで、寂しくならないように・・・。
 いつでも、上総が思い出せるように・・・」
切ない野崎の囁きに引きずられるように、上総の身体までもが 切なくなった。

だったら いつもみたいに、今すぐ 触れてくれたら いいのに・・・。
もう僕は側にいる。
僕は、いつだって ───。

「上総に逢うたびに、僕は1つずつ覚えていったんだ」
思い返して話をする野崎は、少年のような顔をしていた。
いつもは大人の、余裕たっぷりの恋人の、そういう可愛い顔もすごく好き・・・。
心の底でトクンと音がして、上総の体温がぐんと上がった。

「瞳の色は、少しだけ茶色の混ざった黒。きれいな二重で、すごく優しい目をして・・・。
 大きな瞳は、いつもキラキラしてるんだ・・・」
頬に触れた指が そっと瞼をなぞる。
目を細めて声を掠れさせる野崎の瞳に、上総の心の奥がまた反応した。
「髪は 瞳と同じ色・・・」
大きな手のひらが包むように髪に触れる。
その手が優しく肌に触れて、力強く抱きしめながら、いつもたくさん愛してくれる。
たくさん触れてくれる その手が、大好き・・・。
「声は・・・、声も すごく優しかった・・・」
「・・ぁ・」
ツ、と野崎の指が唇に触れて 背中の方から熱が上がった。
たったそれだけでも思い出す、とろり とろける野崎のキス。
恋しい感触がよみがえって、上総は思わず声を上げた。

「1つ覚えて、また新しい発見をする度に上総に1つ近づくみたいで、嬉しかった・・・」
本当に嬉しそうな声で囁く恋人は、いつもより格好よくて凛々しくて、すごく素敵で・・・。
─── もっと、もっと近くに行きたい・・・

「そして僕が一番知りたかったものは・・・、上総の声で 直接教えてもらったんだ・・・」
「・・一番?」
とても大切な物に触れるように、野崎の3本の指先が そっと唇に触れてきた。
形を確かめるように、その感触を愉しむように、優しく優しく触れてくる。

「この子の名前は・・・ 槙村上総。・・・かずさ・・、上総・・・」
「・・・ 聡示さん・・」
切ない声で繰り返しながら、野崎は一段と目を細めた。
まるで愛の告白をされているように感じてしまう・・・。
その声に名前を呼ばれると、身体はまた勝手に思い出していった。
一番深いところで繋がりながら 何度も何度も揺らされて、耳元へ注ぎ込まれる恋人の声・・・。

募る思いはますます膨らんで、上総の中心がはっきりと反応を示した。
瞳はじっとりと潤み始めて、吐き出す息にも熱がこもる。

─── どう、しよう・・・

「とてもいい名前で・・・。字も教えてもらった。上総と一緒に書いて、覚えたんだよ?」
野崎の手が上総の手を取って、手のひらの上に人差し指で 『槙村上総』 を記していく。
『覚えてる?』
小さな声で耳元にそっと囁かれた。
少年のような微笑みは どこか頼りなくて、胸の奥がきゅっと音を立てた。

待つしかできない身体の奥がズキンと反応して、体温がますます上がっていく。
「聡示、さん・・」
聡示さんは、違うの・・・?
口にはできない願いを込めて、上総は野崎をそっと見つめた。


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