星空に触れて-28-

「こんな美味しいのに、奢りなのは申し訳ないな」

ハンサムさんはカップを取ると、もう一度口に運んだ。
美味しそうに飲んでくれる姿をみると、こちらまで幸せな気分になってくる。

「あ、間接キス」
「えっ・・・」
上総が顔を上げると、ハンサムさんの悪戯っぽい視線にぶつかる。

この人は本当に、心臓を急かすようなことをする。
不意打ちで急上昇させておいて、なのにいつも余裕の笑みを返して。

「あっ、あの、ありがとうございました。僕は戻らないと」
上総はバタバタと席から立ち上がって、ハンサムさんに一礼した。
今度こそ感謝の気持ちを込めて、心からの笑顔を送る。

「お礼がしたいな。ご飯でもどう?ご馳走するよ」
『どう?』と視線でも聞いてきた。

「いえ、コーヒー一杯にそんなお礼は頂けませんから。気にしないでください」
上総はぶんぶん両手を振って、遠慮をした。
偶然にも良くできた一杯を出せたからといって、お礼をもらうほどのことではない。

「そういうのは頂けません」
コーヒー一杯600円のお礼にご飯をご馳走するのは、一杯600円のコーヒーをタダで出すのよりもおかしな気がする。
ハンサムさんは何を考えているのか。

「そう。なら、最初の一杯のお祝いなら、どう?」
「お祝いって・・・。そもそも、お金を頂けるようなものでもないですから・・・」
思っていたより美味しかったのは、事実だ。
それはグレードの高い豆だったからで、淹れた側の技術ではないのだし。

「だって、槙村君の『初めて』をもらってしまったんだよ。これは確かに値段は付けられない一杯だ」
聞かれてはいけないナイショ話を打ち明けるような含みのある声で言われて、上総は一気に顔が湯だった。

「初めてっ、って・・・・・・!」
「違うの?」
からかわれているのか、何なのか。
「・・・そ、です」
「じゃぁ、決まりだ。今日もバイト8時には終わるだろう?車で迎えに来るよ」

よく分からない理屈で押し切られて、上総は何も言葉を返せない。
大人の気迫というか、話の流れというか・・・、こういうとき、押しの弱い自分の性格が恨めしい。

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