星空に触れて-25-

「ああ。これ、淹れたの・・・もしかして槙村君じゃない?」
「・・・はい」
仕方なく上総は認めた。
最初から、バレるような気はしていた。

「でも、お代を取らないでほしいってお願いしたのは、僕なんです。だから、最初に言ったとおり、お代は結構です」

どうしてだろう、なんで・・・。

ハンサムさんが言ってくれた『美味しい』が、上総の心の中に妙なざわつきを起こして、
それはやがて味気ない空洞となってぽっかりと隙間を作った。

少しくらい不出来な一杯でも美味しいと言ってくれるだろう、と上総は予想していた。
事実、ハンサムさんは香りまでちゃんと褒めてくれた。
それは決してハンサムさんが卑しい人だという訳ではなく、そういう気遣いができる大人のひとだから。

「それと、あの・・・。僕が淹れたっていうのは、秘密にしておく約束だったので、ハンサムさんは何も聞かなかったことにしておいてくれませんか?ただ一杯、マスターの奢りで飲んだということで、それでお願いします・・・」
言っているうちに、上総はこの一杯を淹れてしまったことへの、大きな後悔が芽生えているのを感じた。

止めておけば、良かった。

一杯だけでも淹れさせてもらえる事が、本当はとても嬉しかった。
これまで一度も口に出した事は無かったけれど、いつかは自分も淹れてみたいと心の中では思っていた。

それでも、こんな風に『美味しい』と言って欲しかった訳じゃない。
これではまるで、学芸会の出し物を褒められている子供のようだと思った。
どんな結果でも、最初から 『よくできました』 と決まっていたかのように。

淹れるんじゃ、なかった・・・。
上総はどこまでも気持ちが沈んでいくのを止められなかった。

「だめ、ですか・・・?」
このカップを、下げられるものなら今すぐにでも下げてしまいたい。
あまりにも未熟な自分が、恥ずかしくて、恥ずかしくてたまらない・・・。

「それはいいけど」
・・・良かった。
とりあえず、ワッフルの代金は払ってもらえる。

「気分でも悪いの?」
顔を覗き込むように見られて、上総はサッと笑顔を作った。
「いえ、あの・・・。そういう訳ではないです・・・」

一刻も早くカウンターへ戻りたいと思った。
まず何より先に黒田へ詫びて、そしてもう二度と自分で淹れるようなことはしないことを約束しようと、上総は何度も心の中で繰り返した。

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