恋心の秘密-2-

野崎に送り届けられた上総は、とぼとぼと時間を掛けて歩いて帰った。
思い足取りのまま家へ上がって一人の部屋に戻る。

「僕だって・・・」

ベッドの縁に腰を下ろして、上総は大きな溜め息をついた。
そして野崎に洗ってもらった髪からシャンプーの香りがしてきて、たまらなく寂しくなる。

ここ1ヶ月、上総自身も、自分の心の変化に戸惑っていた。
どうしたら良いのか分からずに、結局 野崎と距離を取ることしか思いつかなかった。

「分からない・・・」

どうしても・・・ 野崎に逢ってはいけない気がしてしまう。
そんな思いをするなんて、考えたこともなかった・・・。

「だって・・・」

平日は何とかやり過ごしても、毎週 毎週・・・ 週末がやって来る。
週末がやって来る度に落ち込んで、金曜の夜に野崎のマンションへ行くのが、一番辛い。

土日が休日になる野崎の所へ金曜の夜に遊びに行けば、必ず泊まるように話が進んでしまう。

「そんな事したら、また・・・」

野崎と過ごす時間が増える度に、言いようの無い不安を感じてしまう。
それじゃ余計に・・・

「僕だって・・・逢いたかったのに・・・」

上総はギュッと膝を抱えて身を縮めながら、初めて覚えたやるせない思いをかみ締めていた。



◆=◆



そして野崎も一人。

上総を送り届けた後で、広くもの寂しいリビングのソファーに横になっていた。

どこを見渡しても上総の名残りを感じてしまう野崎のマンション。
一人で過ごす週末は、ベッドで夜を明かしたことは無かった。

もう1ヶ月、そんな事を続けている。

「また・・・ ダンマリか・・・」

一度 口を閉ざした上総は厄介で、どこで出来たのか分からない縺れを解すまでは、まともな会話もできない。

今 上総の中で何が起こっているのか、野崎には全く分からなかった。

平日が駄目なら、せめて週末くらい自分の為に時間を割いてくれても良いはずなのに
そう思ってくれるような気配は、少しも無い。

そしてなぜか、一緒に居れば居るほど・・・ 浮かない顔をする。

そんな態度を取られていると、つい、『逢いたくないと』 と言われている気がしてしまう。

「また今週も・・・」
そう思って、目を閉じた時だった。

携帯の着信音がしてきて、小さな液晶に上総の名前が流れ出す。

上総・・・?
こんな時間に、あんな別れ方をした後で上総の方から連絡をしてくるのは予想外だった。

『上総?』
『・・・聡示、さん』

思ったとおり・・・ 泣きそうな声をしてる。

『あの・・・僕・・・』
『・・・もう気にしなくていいから、今夜は眠った方がいい』

大人げ無かったとは思いながらも、野崎の方もその言葉を掛けるのが精一杯。

『あの・・・今から・・・、行っても良いですか・・・?』
『・・・怒ってるわけじゃないんだ、無理しなくていい』

あんな別れ方をしたからといって、仕方なく逢いに来てもらっても良い気はしない。
・・・ そんな風に逢いたいわけじゃない。

『でも、僕・・・ 逢いたい、んです・・・』
『・・・良いから上総、今日はもう休んで』

これではまるで自分が強制しているのと同じ。
そんな風に・・・ 逢いたいわけじゃない・・・。

『分かりました・・・。おやすみなさい・・・』
『・・・お休み』

『・・・また、来ます・・・』


プツリ、と通話が切れた瞬間、野崎の足は独りでに駆け出していた。

慌てて玄関まで走ってドアを開けると、数時間前に送っていったはずの上総が立っている。

「上総・・・」
「聡示さん・・・僕・・・」

泣いているのでは 無かった。

「僕・・・どうしたらいいですか・・・・」
ただ苦しそうに口を結んで、上総は立ち尽くしていた。

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