星空に触れて-21-

「いえ・・・。それは、できないです」

バイトを始めた頃は豆に触ることはおろか、湯を沸かすのも、コーヒーを入れる過程の一切に関わる事を
禁じられていた。
上総はそれを恨めしく思ったことは一度も無くて、自分からやらせて欲しいと言ったことも無かった。
むしろ、黒田の脇で毎日その仕事ぶりを見ていると、そういう姿勢にひどく納得をしていた


材料にも道具にも空間にも、黒田はその全てに心血を注いでいる。
プロとして、お金を取る一杯のコーヒーを淹れることが、生半可なことでは決して許されない事を、
上総はその身を持って理解させられていた。

「俺はアイツを焼いてるしなぁ」
『手が足りないんだが』と言いながら、黒田はミルから挽きたてのコーヒーを取り出して、
さっさとドリッパーの準備に掛かっている。

「そんなの、だめです」
何かの冗談のつもりだろうか。
味の決め手となる最後の大仕事を、素人同然の自分がやるなんて。
お客様に出すものを、とんでもない。

「槙ちゃんに、全部お任せなんだろう?」
黒田はドリッパーを温めながらフィルターを定着させると、湯を捨てて、良い香りのする粉を流し入れた。

「そうですけど、お任せって・・・そういう意味じゃないと思います。それに、こんなに良い豆なのに、お客様にも失礼です」
メニューを決めてくれとは言われたけれど、コーヒーを淹れてくれと頼まれたわけではない。
上総は首を横に振って黒田に訴えた。

自分のような半人前が、お金をもらって人に出せるほどのコーヒーなんて、淹れて良いわけが無い。
そんなことをしたら、この店にも、この店を大事に思っている人達にも、あまりにも申し訳無いと思う。

「淹れ方は、分かるだろう?」
黒田は、お湯の入った細く長い注ぎ口をしたケトルを、ドリッパーの脇に寄せた。
そしてそのポットを指差す。

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