今夜、資料室で-4-

エレベーターを降りた3人は医務室の前で立ち止まった。
「俺はビョーキ持ちなんだけど・・・・・・。早く言えば、人と目が合うと気を失う」
真島の言葉にマリちゃんも水元も眉を寄せて顔を顰めた。
「気を失うって・・・。だって真島ちゃん、普通に話してるじゃない」
「誰でもそうなる訳じゃないんだ。それには条件があるんだけど、その前にこれだけは約束してくれ」
声を潜めて話をする真島の言葉に、二人も真剣な表情で食い入った。
「俺が倒れたら、二人で引きずってでも医務室に連れ込んで欲しいんだ。寝かせられないなら、どこかに寄り掛かからせて床に座らせておくだけでもいい。それから絶対に大騒ぎしないこと。人が寄ってくるとマズイから。それと・・・・・・ 起きるまでは絶対に他の人間を俺の側に連れて来ないこと」
「どうしてですか?」
「目が開いて、またヘンな奴と目が合ったら意味がないだろう。もう一回俺が苦しむ事になる」
「あ・・・そう、ですね・・・」
とは相槌を打ちながらも、マリちゃんも水元も半信半疑の様子で真島に目を向けた。
「信じられないと思うから、ここで見せてやる」
真島は大きく深呼吸した。
「見せる・・・って、もしかして真島ちゃん、今から気を失うの?」
「・・・そうだ」
「ええぇ?!」
マリちゃんと水元が一斉に声を上げた。
「絶対に騒ぐなって、言っただろう?」
「だって、だって真島さん、そんなこと信じられませんよ!」
潜めた声で語気を強めた水元が真島の袖を引っ張った。
「だから、今から見せるんだろう。やることは分かったな?」
「分かったって・・そんな、いきなり言われても・・・」
視線を彷徨わせながら落ち着きを失くしている水元に溜め息をついて、真島はマリちゃんへ向き直った。
「マリちゃん、頼む・・・」
「医務室へ運んで・・・ 誰も側に置かなければ・・・、いいのね?」
「それでいい・・・。二人以外は誰も入れないでくれ。運が良ければ10分くらいで目が覚めるから。絶対に騒がないように」
マリちゃんが真島を見て、小さく頷いた。
それに従うように、水元もおずおずと首を縦に振った。

10年以上見てきた聡示はともかく他の人間に納得させるにはこれしかないだろう。
あんなのは正直ゴメンだが・・・・・・ 仕方ない。

真島は覚悟を決めて辺りを見渡した。
それとなく自分の存在をアピールしながら、嫌なセンサーに引っかかる人間を探し始める。

脇のエレベーターの到着音がして、中から男が降りてきた。
・・・・・・いた。アイツで良いか・・・。

真島の視線に気づいたその男は不躾なほどにまじまじと視線を合わせて来た。
視界が急に白く霞み始めて、五感が徐々に奪われていく。
つま先から髪の毛1本まで撫で上げられるような、これまでにない強い感触が背筋を伝って行った。
(コイツ・・・ ちょっと・・・)
「びっくりすると・・・ は思うけど・・・ 二人とも・・・頼ん、だ・・・・・・」
スッと目を閉じたかと思った次の瞬間、真島はその場に崩れ落ちた。

「真島ちゃん!!!」
「真島さん!!!!」

「・・・真島君っ!!」

だから・・・ 騒ぐなって、言っただろうが・・・・・・って・・・あれ・・・3人・・・?

遠のいていく意識の片隅で、真島は二人+αの絶叫を聞いていた。



そして医務室の寝台の上。
うすぼんやりと瞼の裏が明るくなって、真島はようやく目を覚ました。
重く感じる頭を少しだけ持ち上げて、脇に佇む人間を見上げる。
「おい真島君、大丈夫か?!」

だから・・・誰も側に・・・置くなって・・・言っただろう・・・お前ら・・・っ

「真島さんっ?!」
「真島ちゃん、しっかり!」

その男と目があったのち、真島はまたスッと目を閉じて、もう一度 寝台に身を沈めていた。



◆=◆



それから1時間後・・・・・・。
今度こそ安全に目覚めた真島は、医務室の寝台の上に腰掛けて、腕組みをしながら目の前の二人に無言の非難を浴びせていた。
「すみません・・・・・・」
「ごめんなさい・・・・・・」
言いつけが何一つ守れなかったマリちゃんと水元は肩を落として詫び続ける。
「驚いたから仕方ない。100歩譲って 大声を上げた件は許してやろう。しかし・・・ 選りによってアイツが一番近くに居たのは何でなんだ」
凄む真島に、二人はしゅんとなって小さくなった。

2度目にオチた時は、得体の知れない酷い悪寒がした。
正直、翌日まで目が覚めない事も覚悟した程だった。

「でもっ・・・甲斐さんが、運んでくれたんですっ・・・ その、側に居た人ですけど・・・ね、マリさんっ?」
「そ、そうそうっ!私たちが体を起こそうとした所へ駆けつけて、それで、ここまで運んでくれたのよっ」
しどろもどろになりながら、二人はせっせと弁解を始めた。
「それにっ!甲斐さんって、すごい人なんですよっ!僕、すごく尊敬してるんですっ!あ、もちろん真島さんも尊敬してますっ!」
「とっても紳士だったのよ?真島ちゃんのこと、本当に心配して目が覚めるまで見ててくれたし」
そういうことじゃ無くってさ・・・・・・。
「どういう人間だろうが、 『俺にとって安全かどうか』 が問題なんだ。二人の好みの問題じゃないんだよ、・・・全く・・・」
うな垂れた真島に向かって、二人はもう一度詫びを入れた。
「本当に・・・すみませんでした・・・・・・」
「ごめんなさいね、真島ちゃん・・・」

まぁ・・・ 最初はこんなモンだろう・・・。
初めから上手くやれたアイツの方が・・・ 変わってるのかもしれない・・・。

「まぁ・・・。これで分かったと思うんだけど、俺はビョーキ持ちなの。だから異動して来たんだ」
真島はふぅっと大きく息を吐いた。
「でも・・・ 真島さん、今まで大丈夫だったんじゃないんですか?仕事だってあんなに・・・」
人と顔を合わる度にこんな状態になっていた人間が、よくも今まで無事で居られたものだと、水元はその表情で訴えている。
「ひょっとして・・・あのお友達?」
察しの良いマリちゃんが割って入った。
「そう。俺はこんなだけどね。アイツが居れば仕事も何とかできた」
「ぁ・・・野崎さんが、出向したからなんですね・・・・・・」
こんな自分でも仕事ができるように、細かい所まで色々と手を回してくれていた。
俺がアイツに付き合ったんじゃなくて、アイツが俺に付き合ってここへ入社したようなモンだ。
「あと2年、こんな俺に付き合ってもらわないといけない。二人には先に謝っとくよ。迷惑掛けて、ごめん」
急に殊勝な態度を見せた真島に、マリちゃんも水元も首を振って笑顔を見せた。
「でも、僕達なら大丈夫なんですから、何とかなりますよ」
「そうよ。あの部屋で仕事してるだけなら、こんな事にはならなくて良いし」
何とかなる、ね・・・・・・。
「そう言ってもらえると、ちょっとは気が楽になるよ。とにかく・・・よろしく頼む」
確かに、あの場所なら2年もそう長くはないかもしれない。
少なくとも気を張らずに普通の生活が送っていけるような気は、する。

「あっ・・・ そうだ・・・」
水元がハッとしてマリちゃんと顔を合わせた。
「マリさん、確か甲斐さんが・・・」
「あっ・・・!」
マリちゃんも何事か気づいて小さく声を上げた。
「・・・何だよ」
嫌な予感がする。
「真島さんが心配だって言って・・・・・・」
水元は体をもじもじさせながらマリちゃんを見た。
「後で資料室、覗きに来るって・・・」
マリちゃんがばつの悪そうな顔をして真島を見上げる。
「もしかして・・・ それを」
嫌な予感が、する。
「いつでもどうぞって、・・・言っちゃいました」
水元とマリちゃんは顔を合わせて苦笑いした。

「・・・それじゃ・・・あんまりにも おバカさんだろう、君たち・・・」
真島は完全に脱力して膝に手をついて体を支えた。
「だって、僕すごく尊敬してるんですっ!」
「紳士だったのよ、本当に、すごく丁寧な人なのよぉ」
「だから・・・ 二人の好みの問題じゃ無いって言っただろう、俺には死活問題なんだって・・・」
「だってっ!だって真島さんばっかり、ずるいじゃないですか!僕だって、甲斐さんと話をしてみたかったんですっ!!」
「お茶くらい、良いじゃない、ね??」
「せっかく甲斐さんが心配してくれてるのに、真島さん酷いですよっ!!」
「おい、酷いのどっちだよ?!」
「本当は2度目も最後までついてるって、言ってくれてたのよぉ?」

「さっき謝ったの、二人分返せ!!!!」

やがて真島があきれ果てて力尽きるまで、医務室に3人の声が轟き続けた。

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