天の川のむこう-65-

やり過ぎてしまった・・・・・・

1時間ほどの記憶の空白を思い返して、野崎は小さく苦笑した。
まだ眠りに堕ちたままの上総の上から静かに体を避けて脇に片肘をついて体を並べる。
その目元に小さな涙の痕を見つけてそっと指先で拭って、そのまま髪の中へ手を潜り込ませた。

やっと取り戻したと体を繋げた途端にあんな可愛い姿を見せられてしまっては・・・
我を忘れてしまうのも仕方がないというもの。
それに・・・今夜は上総も合意だったはず・・・・・・。
それを感じていたからこそ、尚更 求めずにはいられなかった。

沸き起こる欲情に戸惑いながらも そこへ自ら身を投じていく上総の姿はあまりにも扇情的で、
愛しさも相まって今日は歯止めが利かなかった。

「そうじさん・・・」
重そうに瞼を上げた上総はぼんやりとした視線を向けて、やがて穏やかな微笑みを作って笑いかけてくる。
「ごめん、ちょっとやり過ぎた・・・」
『ううん』 と首を小さく横に振った上総の額に野崎は唇を押し当てた。
「寒くない?」
「・・・だいじょぶ・・・です」
「もう少し僕も休みたいから・・・シャワー、ちょっと待ってね」
「・・・はぃ・・・」
素直に返事をする上総の様子にもまた愛しさが込み上げて、野崎は上総の唇を何度か啄ばんだ。
また視線をトロンとさせ始めた上総の顔を愛でながら髪を梳く。

「そう言えば・・・ 今日の観測って、そんなに有名だったの?」
柔らかい髪の感触を指の間で愉しみながら、野崎はふと気になっていたことを口にした。
「ここへ来る時かなり渋滞してたんだ・・・。早く助けに行きたかったのに、すごく焦った」
苦笑して見せると、上総は少しだけ切ない顔をした。
『ごめんなさい』 また上総はそう言おうとしている。
もう忘れていい・・・。
「今からじゃ見られない?」
上総の言葉を敢えて遮るように野崎は話を続けた。

「もともと、肉眼では見られないんです。それに望遠鏡を使っても・・・今年は見られないかもしれません」
「見られないかもしれないのに・・・あんなに人出があるんだ?」
あの渋滞の様子では一般客も大勢いただろうに。
「見えないところに、意味があって・・・」
「縁起物なの?」
何かのご利益・・・?
「僕も知らなかったんですけど・・・。この流星群には逸話があるんです」
「逸話?」
上総は野崎に向かって頷くと、どこか遠いところを見るような目をして話し始めた。
「毎年だいたい同じ辺りに姿を現す流星群なんですけど、一定周期で見えなくなる年があるんです。それが今年で、直前は7年前でした・・・。別名 【恋人達に降る星】 って言われていて、この観測に成功すると 永遠の絆で結ばれる ってうエピソードがあるんです・・・」
「恋人達に降る星?」
あの渋滞はそれにあやかりたい連中が・・・。
なるほど・・・ 高居も、か。
「見つけた学者夫婦が晩年までとても仲が良かったから、そう呼ばれているんですけど・・・。実は見つけたのは奥さんの方だったんです」
「研究してた学者は夫の方?」
「・・・そうです。でもあくまで逸話なので、それが本当かどうかは、分からないんですけど・・・・・・」
上総は体を仰向けると空に手を伸ばして、指先で絵を描くように説明を始めた。

「毎年、大きな天の川の端にこうやってくっついて姿を現すんです。それがある年後ろへ隠れて見えなくなって、次の年にはまた同じように見えるようになって・・・。いつも研究に付き合って夜空を見上げていた奥さんの方がそれに気づいたそうなんです」
「それは・・・現実的に難しいんじゃない?」
あの天の川の一部が少し欠けたくらいで、それを人間が肉眼で発見することなどあるのだろうか。
それこそ星の数だけ判別しようとするなら・・・まさに天文学的な話だろう。
「僕もそう思うんです。でも・・・・・・だからこそ、逸話ができたのかもしれません。それに・・・」
上総の声に笑みが混じった。
「当時の彼とキスしてる時に気づいたそうなんです。いつも見あげていた景色が違う、って・・・」
「ますます無理だ。彼女はキスの片手間にそんなことしてたのか」
野崎の声にも笑みが混じる。
上総も少しだけ肩を揺らしてクスクス笑った。
「だから逸話なんだと思います。でも結局その学者はこの流星群が一定周期で運動していることを長年掛けて観測して、この流星群が1つの単体だっていう説は認められました」
「内助の功、か・・・」
「・・・はい。それで永遠の絆で結ばれるなんていう話になったらしいんですけど・・・ 僕、全然知らなかったんです」
そんなニクイ演出をしようとしていたとは。
あのガキ ますますもっていけ好かない。


「次は・・・ 次に同じ現象が観測できるのは、たぶん8年後です」
そう言って、上総が静かに胸元へ身を寄せてきた。
背中へ腕を回してその体を抱き寄せる。
「その時は・・・・・・ 僕は、聡示さんと観測へ行けたらいいなって、思って・・・」
上総は無自覚に そんな可愛い事を言う・・・。
その言葉を聞いた方がどれだけの含みを読み取ってしまうのかなど・・・ 考えていないのかもしれない。
「・・・僕と?」
自分を相手に・・・。
その逸話にあやかりたいのか・・・、 8年後までの愛は確実なのだと誓っているつもりか・・・、
逸話になるくらいの奇跡を起こしてみたいとでも、言っているつもりなのか・・・。
純粋に、ただ運試しのつもりで観測困難な流星群を見に行きたいと、言っているのか・・・。
「僕は・・・ 聡示さんとなら、見れそうな気がして・・・」
胸に上総の手のひらが触れた感触に、野崎は勢い良く体を起こして上総の上に重なった。
いつもどおり穏やかな表情をしている上総が真っ直ぐに視線を合わせてくる。
「肉眼じゃ見れないんだよね?」
野崎は上総の頬を指先で撫でながら静かに言った。
「・・・見れるかも、しれません・・・」
小さな声で、それでも真っ直ぐにこちらを見つめ返しながら上総は応えた。

まったく・・・本当に無自覚に・・・。
でも───、上総もそのつもりなら構わない。
どれだけでも 良い様に汲み取ってしまえ。
「じゃぁ 8年後、上総が僕を連れて行って。約束」
そう言って、野崎は上総の左手を取って薬指の上にキスを落とした。
「必ず・・・ 僕が連れて行きます」
まるで誓いの言葉を告げるように返事をした上総の体を、野崎は力強く抱きしめた。

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