天の川のむこう-40-

「ネタ元は分からなかったが・・・社の記事は先週から掲載予定だったらしい」
野崎の依頼で週刊誌の発行元で事情を確認してきた真島が、くたびれた様子で野崎のオフィスへ戻ってきた。

考え過ぎ・・・。
できればそうだと思いたくても、頭の中に四六時中 あの高居の存在が付いて回って離れない。
「嫌な感じがするんだ・・・」
何が、とは はっきり言えない悪い予感がする。

真島はソファーにどっかりと腰を下ろして、タバコを1本咥えた。
「お前の胡散臭い第6感に付き合わされる身にもなれよ・・・。それにしても・・・・・・」
直ぐに1筋の煙が立ち昇って、真島が大きく煙を吐き出した。
「シュガーちゃん相手だと余裕も無しだな、聡示」
真島は目線だけで野崎を見遣った。

「・・・悪いか」
余裕が無い・・・。
自分でも自覚はあった。
その全てを手に入れたはずなのに、気持ちが落ち着く時が無い。

今この時も自分の事を思い出してくれているだろうか、逢いたいと思っていてくれているだろうか。
今日こそは家に着いたら一番にこちらへ連絡をして、自分からあの可愛い声を聞かせてくれないだろうか。
そんな事ばかり考えてしまう。

そんな事を思ってしまうのは・・・
ただ単に 上総に舞い上がってしまっている自分の我が侭だけだとは思えなかった。

どんな時でも側にいて欲しいと思えばこそ 部屋の鍵を渡したのに、自分の方からはなかなか寄り付こうとしない。
奥に手付かずの1部屋があることにも、上総はまだ気付いていない。
いつかその部屋が上総のもので埋まってくれることを期待して、ずっと空けてその時を待っている。

真夜中に、自分から連絡してしまいたい所をぐっと我慢して、やっと自分から連絡をくれたかと思えば、プッツリと切られてしまう。
声が聞きたいという思いが溢れたまま、その勢いで連絡をしてくれたと分かった時は柄にも無く心が高鳴った。
だったら、 そんな事も思ってくれているのなら、なぜ・・・。


上総が・・・心に壁を作っているような気がしてならない。
少し前から気にはなっていた。

心を通わせて体を繋げて、それでもまだ何か・・・
上総はその一番奥へは自分を踏み込ませてくれないと感じてしまう。

上総が、どこまで進んでも縮まらない何かを自分との間に作っていて
まるで自分が最奥へ触れようとするのを拒んでいるようにも思えてしまう。

決してそれが・・・・・・ 『温度差』 から来るものだとは考えたくはなかった。

大人しくて物静かなその性格のせいだからだと、そう思っていなければ・・・
小さな気掛かりは苛立ちに変わって、やがて上総を苦しめてしまう事は痛いほどに分かっている。

それにもう一つ・・・・・・。
もしも相手が高居なら・・・・・・、
それを考えると また余計な苛立ちが増えてしまった。

気心の知れた高居が相手なら その心を包み隠さず全て開いてしまうのではないかと考えると、胸の奥にジリジリと焼かれるような痛みが走った。

上総との間に築かれた、自分ではどうにも出来ない見えない大きな壁を なぜか高居だけは あっさりと飛び越えてしまうような気がしてしまって、高居への嫉妬にも似た対抗心のようなものが芽生えていた。

そんな後ろ向きな事を考えさせられる恋は、これが初めて・・・。

「上総は・・・誰とも違う」
これまで関係を持った、どんな人間とも違う。
神妙な声を出した野崎を見て、真島が静かに口を開いた。
「あんな女のデマまで流して守りたいほど本気なのは分かるが・・・今回は気のせいだろう・・・?」

雑誌に証言を寄せた女たち。
もともと上総の存在をカモフラージュするつもりで随分前に雇ったものだった。
今回の証言は少し悪ノリが過ぎているがそれは本来の役割で、黙って肯定しているのが自分と上総のため。
無節操に遊び回っている奴だと、噂のネタにされるのはむしろ好都合な事で、別に痛くも痒くもないのだが・・・。

「上総が自分から何かを言い出すとは思えない・・・」
上総が自分との間に構築した見えないヴェールに阻まれて、上総の本音は絶対に届いてはくれないと思ってしまう。
上総の心の中でどんな事が起こっていようとも
そのヴェールを潜り抜けられない限り、こちらには何も伝わっては来ない・・・。

そう思えばこそ、自分からあれもこれも全て手を尽くして、
どんな小さな気掛かりも不安も無くなってしまうまで、
気が済むまで掘り返して行かなければ、落ち着くことができないのが本音。

「なぁ、聡示。シュガーちゃんを追いかけるのは止めたらどうだ?」
「何だと?」
落ち着いた真島の声に、野崎はあからさまに声を荒げた。
「そうじゃない。どうせシュガーちゃんからは何も聞けないんだろ?なら、そいつに変えたらどうかって言ってるんだ」
「どういう意味だ?」
「その男・・・ 『高居』 に人を付けろって言ってるんだ」
「高居に人を、か・・・」

・・・そうかも知れない。
真島の方が分かっている。
どれだけ言葉を尽くしても、上総へ届かない一線があるのなら・・・。

しばらく思案した野崎は真島の言葉どおり、せめてもの打開策になればと 翌日から高居にも人を付けることにした。





真島も帰った夜のオフィス。
今日も届けられた上総の行動記録は、明らかにいつもとは違った。
あれだけ熱心に取り組んでいるバイトにも行かず、大学の前からタクシーで帰るような事までしていた。

それに、昨日から大学を出る時間が遅い。
体調を崩してしまったのか、どう考えても何かがあったはずなのに・・・。

いつもより早く自宅へ帰り着いて居た事は分かっていて、
それでもバイトが終わって家へ帰り着くいつもの時間を待って野崎は電話をした。

何コール呼び出しても上総は出ない。
15コール、20コール・・・
本当に体調が悪くて寝込んでいるのか、もしかして病院へ担ぎこまれてたのではないかとまで 気が焦り始めたころ。

『・・・もしもし』
消えそうな細い声で、上総が電話に出た。
『上総?どうかした?』
明らかに覇気の失せた弱々しい声に、嫌な予感が当たってしまうのかと不安になる。
『いえ・・・、大丈夫です・・・』

こんな時くらい甘えてくれてもいいだろう・・・。
そんな声をしておいて、 『大丈夫です』 か。

『元気ないみたいだけど?』
上総の本音は、
『いえ・・・本当に、大丈夫ですから・・・』
また・・・聞かせてはくれない。
『今日、何かあった?』
遅い時間に大学を出て、タクシーで帰って。
『の・・・』
『うん?』
『何も・・・』
どうしてなんだ。
『何も、ないの?』
『・・・は・・・ぃ』
一体何をしたら・・・この距離は、縮まってくれるのか・・・

野崎は小さく息を吐いた。
これ以上問い詰めても、上総の心の奥底にしまわれた本音は・・・今日も聞けない。

『そう・・・。何も無いならいいけど』
問い詰めてしまいたくなる気持ちを宥め賺して声を落ち着ける。
『バイトで・・・疲れてて・・・』
『え・・・?』

野崎は一瞬、凍りついた。

『バイト・・・?』
『すごく・・・忙しかったんです・・・。それで・・・疲れてて・・・』

違うだろう?
今日は、大学からそのままタクシーで・・・

『忙しかったの?』
『・・・は・・・い』

もう黙って聞いてはいられなかった。

『上総、日曜日うちに来れる?』
『ぇ・・・』
『夜なら少し時間が取れるんだ』
『日曜は、用が・・・あるんです・・・』

用ね。
どれほど大事な用かは知らないが・・・ そんなものは知らない。

『月曜は?』
『えと・・・』
『バイトの後でいい』
『それは・・・』
『必ず来て』
『聡示さん・・・』
『いいね?』
『・・・はい・・・』

携帯を閉じて、野崎はそのまま放り投げた。

上総は何を考えている?
壁を作ってヴェールで隠して・・・・・・ 嘘は、許さない・・・。

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Comments

すみませんです・・・(汗
ちょこっと内容を訂正したのですが、その前の分が一度出てました・・・(冷汗。
ほんとにすみませんです m(;▽;)m
Posted at 2009.04.27 (08:09) by 冬実 (URL) | [編集]
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