天の川のむこう-37-

「こんなことでどうにかなるなんて、思ってないけどね・・・」
上総と分かれた高居は、一人の車の中でクスリと笑っていた。

週刊誌の発行元との人脈と、かき集めるだけかき集めた金を最大限に使ってやった。
もともと載せられる予定だった野崎の会社の騒動に関する特集記事。
アイ・キャッチになるだろうと、野崎自身の過去の色恋に関する情報を提供して、掲載されるようにそれとなく仕向けた。

これはただの小手調べ。
ただの遊びの相手でも何でも良かった。
野崎と上総の間に多少の揺さぶりが掛けられればそれで十分。

あの記事を目に留めたであろう野崎は・・・当日のうちに予想どおりの行動をした。
こちらに疑いを掛け、上総の行動を制限して接点を絶とうとしてきた。

「やっぱり分かってないな、野崎さん。カズはそれが一番ダメなんだよ」

厳格な父親から 常に厳しく育てられていた上総は、威圧的な態度を取られる事に酷くアレルギーを感じてしまう。
上総の性格が温和で、誰にでも優しい態度で接しようとするのは、その裏返し。
それに何より上総は、自分のせいで他の誰かがイヤな思いをすることを一番嫌う。

「思ったとおり。どうせカズの事はお気に入りのコレクションの一部くらいにしか考えてない。自分のものが失せるのが嫌で駄々を捏ねる子供と一緒だ」

会ってはいけない、話もするな、ただ言うことを聞いていればいい。
・・・・・・まんまと思い通りに振舞ってくれた。
良い具合に上総もショックを受けている。

「そんなことしたらカズの心はますます離れていく。カズが欲しいのはお金でも物でもない、自分への 『理解』 なんだ」

やはり、上総はまだ野崎との関係に戸惑っていた。
男同士であることにも、ずっと引け目を感じている。
それに野崎との 『違い』 が多すぎることを未だに悩んでいた。
たったあれだけの記事に多少の口添えをしただけで、いとも簡単に迷宮へ落とし込まれたのが良い証拠。
思った以上に野崎に心を奪われている様子だったのは気に食わなかったが、それも今のうち。

「大丈夫、カズには僕がいるからね・・・」

どこか自己犠牲的な考え方をしてしまう上総。
あれでいて結構な芯の強さを秘めている。
『野崎を心配させてはいけない』 と言っておけば、上総は絶対に口を割らない。
それでなくても・・・まだ成熟した関係ではない野崎相手に、こんな話を切り出せるような性格じゃない。
高居は確かな手ごたえを感じながら車を走らせていた。




大学で高居を見送った上総は、とぼとぼと駅に向かって歩いていた。
「聡示さん・・・」
この指輪は、 『ずっと側にいる』 と言ってくれた あの言葉の証なのだと信じたい。
たとえあの記事が本当にあったことだとしても、自分が見てきた姿を・・・今でも信じたい。

でも・・・。
だったら自分は野崎にとってどういう存在・・・・・・?

高居が言っていたことが本当なら・・・。

将来が約束された野崎にとって、自分は・・・その華やかな人生に傷を付けてしまう、存在・・・。
いつか本当のパートナーが出来たと同時に終わってしまう 限りある関係・・・。

どれだけ自分が野崎の事を想っているかが問題なのではなくて、
自分が あの野崎と一緒に居ることを許されるような価値ある人間なのかどうかが、問題だった。

だとしたら・・・。
自分に一体何ができる・・・?
心から想っている、もうその事しか 自分には残っていないのに・・・。

側に居て、あの野崎の為に、自分が与えられるような何か・・・
・・・・・・・・・・・・そんなもの・・・持ってない。

煌びやかな経歴も華やかさもない、どこにでもいる大学生の 『男』 の自分に・・・
そんな価値なんて、自分には・・・

自分自身への問いかけを繰り返すうちに、上総は出口の見えないところへ足を踏み入れてしまっていた。



一方 野崎も頭を悩ませていた。

「しかしまぁ・・・。今更 記事にされるような事じゃないよな・・・」
例の週刊誌を片手に、真島が野崎のオフィスでぼやいていた。
「当たり前だろう」
野崎本人も釈然としない思いだった。
なぜ今頃になって、こんな記事が取って付けた様に掲載されているのか。
「でもまぁ、これは文句も言えないからなぁ・・・。お前、誰かに恨みでも買ったんじゃないのか?」

決して否定できないのは痛いところ。
なにも好き好んで何人もの女の影をちらつかせている訳ではない。
「こんな会社の専務じゃ恨まれてても仕方ないだろう」
ここまでの道程でやってきた事は、確かに奇麗事だけではなかった。
あんな事件を起こしたのだし、自分の目に付かないところで相当な反感を買っていてもおかしくはない。
それにしても、今更すぎる。

「そうじゃなくて、女に恨まれたんじゃないかってことだ。例えば・・・シュガーちゃんとか」
「いい加減にしろ。上総がこんなことするわけないだろう」
野崎は真島を一瞥して、デスクの上に広げられた雑誌の記事を見た。
「こんな幼稚な事して喜ぶのはお前に恨みを持ってる女ぐらいだろ?お前の場合、男かもしれないけどさ」

昨日。
この記事を真島に見せられて、最初に名前が浮かんだのは、これまでに関係のあった誰でもなく、高居だった。
確たる証拠があったわけでは無いが、嫌な予感がしてならなかった。
当の上総はどんな様子かと心配して連絡を取ってみれば・・・。
こんな状況だというのに高居との約束をまだ断りきれていない事に焦れてしまって、とうとう最後は口を荒げていた。
そのせいで、何とも後味の悪い終わり方にはなったが・・・。
それ以外は特に変わった様子は無かった。
「上総はまだこれに気づいていなかった」
「まぁ、こんなのを買い漁るような子じゃないよな」
確かに、上総が好んで見るような雑誌でもないが・・・。
「しかし何で今更・・・・・・」
野崎と真島はデスクの上の雑誌に目を落として思案に耽っていた。

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