天の川のむこう-34-

翌朝。
隣に優しい温もりを感じながら、上総は幸せな朝を迎えていた。

大切な人が出来た時から、いつか話せるようになったらいいと、ずっと心の中で祈っていた。
昨夜 ───。
何年も閉ざしていた、重く冷たい心の扉を開いて、一番辛く悲しかったあの日の出来事を終に打ち明けた。
深い眼差しをして受け止めてくれた恋人は・・・・・・ずっと側にいるからと、言ってくれた。

まだ静かな寝息を立てている野崎の顔を見ながら、上総は大好きな名前をそっと口にした。
「聡示さん・・・」
もうこの人に代えられる存在なんてない。
自分の痛みを知ってくれたように、今度は自分もこの人の何かを受け止めてあげられたらいいと思う。
そしていつか必ず 『愛してる』 の言葉を告げて、その気持ちに応えたい。

ふと野崎越しに見えた時計を確認して、上総は静かに身体を起こした。
もう始発が走りだした時間。
仕事へ行くには早すぎる野崎を起こさないように、そっとベッドを抜け出した。

音を立てないようにドアを閉めて、上総は駅に向かった。
ふと野崎の優しい顔が脳裏をよぎる。
「怒られるかな・・・」
何も言わずに残してしまった恋人に 短いメールを作って送って、上総は人の流れに逆行しながら家に辿りついた。



そしてその日の夜。
バイトを終えた上総が家へ着いたちょうどその時、野崎から連絡が入った。
『もしもし、上総?』
その優しい声を前よりもずっと近くに感じてしまうのは気のせいじゃない。
『聡示さん』
『メール返事できなくて・・・というよりは直接言いたかったんだけど』
『どうかしました?』
あのメールは別に大した内容では無かった・・・はず。
『帰りは送って行くって言った』
『え?』
『恋人に何にも言わないで帰るなんて』
『え・・・』
『上総ひどいよね』
『えと・・・』
『おはようのキス してもらうつもりだったのに』
『あの・・・』
『起きたらベッドに・・・僕一人だった』
もしかして・・・・・・拗ねてる?
憮然とした声でまくしたてた野崎が不謹慎にも可愛く思えて、上総の声に笑いが交じった。
『ごめんなさい』
『・・・笑ってる』
あの大人でカッコいい恋人が、こんな子供みたいな言い草をするなんて・・・・・・。
『聡示さん、かわいいです』
『上総かわいけど かわいくない』
愛しくて仕方が無い。
『今朝は一緒に居たかったんだ』
『え?』
『ずっと上総の側に居るって、約束したからね』
『あっ・・・』
『その場の勢いで言った訳じゃないよ。そのつもりで指輪を贈ったんだ』
『聡示さん・・・』
『だから次は勝手に帰ったりしないで。いいね?』
『・・・はい』
またこうやって・・・ますます好きにさせられてしまう。


『それで・・・』
『はい?』
『聞き忘れてたから、来週のこと』
その言葉に、上総の背中がスッと伸びた。
『断ったよね?』
野崎は落ち着いた声で断定的に言った。
断った・・・。
断るには断ったけれど・・・。
『僕は・・・断りました』
『どういう意味?』
上総の答えに、野崎の声がぐっと低くなる。
『断ったんです。聡示さんに逢うことも、伝えました・・・』
『それで?』
『でも・・・・・・また日を改めるって、言われて・・・』

はぁぁ、と野崎が大きな溜め息をついたのが聞こえた。
『とにかく・・・・・・。もうこれ以上は黙って見てられない』
『ぇ・・・?』
『僕が良いって言うまで、高居には会ってはだめだ』
『どういう・・・ことですか・・・?』
上総は野崎の言葉に耳を疑った。
高居のことは、自分の過去も含めて全て洗いざらい話しをした。
それで理解をしてくれたものと思っていたのに、野崎はまだ・・・・・・高居を疑っていた。
『家にやってきても話をするんじゃない』
『聡示さん、待ってくださいっ』
会うことも話すことも許さないなんて、どうしてそんな横暴なこと・・・
『いいね?』
野崎は上総の言葉などまるで何も聞こえていないように一方的に話をする。
『だって聡示さんっ』
『上総は僕の言う事を黙って聞いてれば良いんだ』
『そんなっ・・』
『僕の言う事を聞くんだ。分かったね』
『待って、聡示さんっ!』
上総が最後に声を掛けた時は・・・通話は既に切れていた。

いきなり告げられた厳しい言葉に、上総はただ呆然と立ち尽くしていた。
「聡示さんどうして・・・・・・」
上総は信じられない思いで携帯を見つめた。
高居のことを疑っていたことも悲しかった。
でもそれ以上に、 『ただ言う事を聞いていればいい』 と言われた事が、あまりにもショックだった。
「どうしてそんなこと・・・」
急な展開に上総が困惑していた時、もう一度携帯が振動を始めた。

「お兄ちゃん・・?」
小さな液晶の中には、 【高居彰】 の名前が光っていた。

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