天の川のむこう-31-

週が明けた月曜日、野崎はイライラと落ち着かない気分で夜が来るのを待っていた。

毎日届けられることになっている上総の行動記録。
土曜も日曜も『高居彰』 の名前が纏わりついていた。
ただ会っているのでさえも我慢がならないのに、日曜に至っては高居の腕に包まれて涙を流す姿がしっかりと撮られていた。
写り込んだ高居の表情。
野崎には、慰めるというよりも したり顔で抱きしめているように思えてならなかった。

あれほど忠告しておいたのに一体どういうことなのか?
苦虫をかみ潰したような面持ちで上総が帰る時間を待っていた。

バイトを終えた上総が家に帰る頃合を見計らって、野崎は上総に電話を掛けた。

『もしもし、上総?』
『聡示さん』
心地よく耳に届いた声はいつもどおりだった。
『もう家に着いたよね?』
『はい』
微笑みを浮かべて頷く仕草が思い出されて、野崎の頭にカッと上りつめていた血が少しだけ下がった。
『僕も電話しようと思ってたんです』
可愛いことを言う上総に、思わず追求の手を緩めてしまいそうになる。
『何か、あった?』
野崎はできるだけ優しく、沸々と煮えている内側を悟られないように切り出した。
『実は・・・。来週、観測に行く約束をしてた友達と会ったんです・・・・・・』

それだ・・・。
一体何をしてたのか、納得がいくまで聞かせてもらうからね。

正直なところ、上総の口から他の男の話を聞くのは良い気はしない。
それでも隠しだてせず自分から言い出したところは認めてやれる。
『いつ?』
野崎は静かに問いかけた。
『土曜と、日曜です。バイトから帰ったら、家の前で待ってて・・・』
会ったことを申し訳なく思っているのか、電話口の上総の声は徐々にしぼんでいった。

『それで・・・土曜はどうしたの?』
まずは土曜。
報告によれば、送っていった後すぐに高居と接触している。

『資料を、持って来てくれたんです。予定してた流星群の・・・。古い資料で貴重なものを貰ったからって』
『資料?』
『これまで何度か観測されてる過去の資料です。ほとんど写真でしたけど』
何かを手渡された、そう書いてあったのはそれだったのか。
まぁ、7年越しの約束ならそのくらいするのかもしれないが・・・・・・。

『それで・・・日曜は?』
肝心の日曜。
何がどうなったらあんなことになるのか、正直に話してもらわないとね。

『それが・・・日曜は・・・・・・』
上総は途端に言葉を濁した。
だろうね。
あんなことをしていて平気な顔して話せる上総じゃない。

『どうしたの?』
穏やかに、それでも押しは強く、野崎は上総の言葉を促した。
『あの・・・・・・、それが、その・・・・・・』
隠すつもりは無いらしいが、どうにも言い出せない雰囲気が伝わってくる。
『上総?』
どんなに言い難かろうが、うやむやに終わらせる訳にはいかない。
『土曜日に・・・・・・僕が聡示さんに送ってもらった所を、見たって・・・』
『え・・・?』
上総の言葉に、野崎はソファーの背もたれから体を起こした。
『聡示さんが・・・僕の恋人だって、気づいて・・・』
『それで?』
『友達は・・・聡示さんがニュースに出てたことも知ってたんです。それで・・・』

・・・・・・なるほどね。
二人の関係もこちらの素性も知れた、というわけだ・・・。

『僕・・・出掛ける時いつも指輪してたんです。左手の薬指・・・いつも、だから・・・』
いきなり、なんて可愛い告白をしてくれるのか・・・・・・。
本人はそんなことには気づきもせずに、ひたすら申し訳無さそうに言葉を紡いでいる。
『出掛ける時はいつも・・・いつも、だから、聡示さん・・・ごめんなさい・・・』
『どうして謝るの?』
聞き返した野崎の声はまろやかに溶けていた。
それは、一人でいる時にも自分のことをずっと想ってくれていた証拠。
謝る必要など どこにもない。
『指輪に気付いてたみたいなんです・・・それで聡示さんのこと・・・』

そういうことか。
まぁ、知られたところで痛くも痒くもない。
上総とは、人にとやかく言われるようなやましい関係ではない。
あの指輪は永遠を誓うつもりで贈ったものなのだから。

『指輪をしてたのは悪いことじゃないだろう?』
たまたま送り届けた現場を見たからといって、普通はそれが直ぐに指輪と直結することはない。
そもそも男同士なのだから、もっと確実な決定打が必要なはず。

『・・・キスしたところ見られたんだね、きっと』
『・・・・・・そう、だと思います・・・』

言い難そうにしてたのは、これだったのか。

上総の性格では堂々と胸を張ることは難しいだろう。
だからと言って、泣くほどのことではない。

『それで・・・何か言われたの?』
一体なぜ自分以外の男の胸で泣くような事態になったのか?
『僕達のこと、変じゃないって言ってくれました』
『何だって・・・?』
ぱっと明るくなった上総とは対照的に、野崎の声はぐんと低く籠もった。
『男の人が相手でも、変じゃないって・・・』
『それで?』
『僕、怒られると思ってたんです。酷いこと言われるかもって・・・。それで、嬉しくてつい・・・泣いちゃって』

うれし泣き、か。
上総らしいと言えば上総らしい。
結局は、近しい人間によき理解者を得たという顛末ではあるが・・・・・・。

『上総、明日家に来れる?』
『バイトがありますけど、その後でも良いですか?』
この際、二人の関係を本人の口から聞いておいた方がいいだろう。
上総がどう思っているのかも、気になるところではある。
『いいよ、帰りは送っていくから』
『分かりました。明日、バイトが終わったら行きます』
『じゃ、待ってるから。おやすみ、上総』
『おやすみなさい、聡示さん』

電話を切って、野崎は一人思案した。
高居という男、一体何を考えているのか?
二人の関係に理解を示すようなことを言って、どういうつもりなのか?
「取り越し苦労で終わればいいが・・・」
野崎は高居という得体の知れない存在に考えを巡らせて頭を悩ませていた。

目次へ...

Leave a comment

Private :

Comments

- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -
12 02