天の川のむこう-17-

週が明けた木曜日。
バイトから帰った上総が家の前まで来たとき、玄関の近くで高居が待っていた。

「彰お兄ちゃん・・・・・・」
「ごめん、迷惑かと思ったけど待ってたんだ」
7年もの時間が経っているのに、まだ心のどこかにシコリを感じてしまう。
一緒に遊んでいた頃の感覚には・・・すんなりと戻れそうもない。
「電話くれれば良かったのに・・・・・・」
会う前にはまだ心の準備をする時間が欲しい・・・。
「そう思ったんだけど、やっぱり・・・顔を見て話がしたかったんだ。ちょっと、歩かない?」
「・・・うん、いいよ」
やんわりと促されて、断る理由も無い上総はとぼとぼと半歩後ろをついて行った。


「よくこうやって・・・カズの家まで歩いたね」
「お兄ちゃんいつも送ってくれたから・・・」
決して遅い時間でなくても、高居は必ず上総を家まで送っていった。
上総が家の中まで入っていくのを必ず見届けてから、帰っていった。

「カズはいっつも ちょっと後ろなんだ」
懐かしそうに目を細めて振り返った高居と目が合う。
その目の奥がいつもと少し違う気がして、上総は思わず下を向いて目を逸らした。
「・・・歩くの遅いから、だよ・・・」

「カズはあの時・・・」
歩く早さを少し落として、高居が神妙な声で言った。
「僕のこと、信じてくれてた?」
さっきの柔らかい表情は少し悲しいかげりを落として、上総の返事を伺っている。
「僕が警察へ行ってた時・・・。カズはどう思ってた・・・?」
少し掠れる高居の声は、言葉にしないその苦しみを伝えてくる。

高居は無実だった。
放火の犯人が自首してきて、警察も誤認だったと説明してくれた。
それは喜ばしい事実だったけれど・・・。上総にとっては、それ自体が問題なのでは無かった。
「僕は・・・・・・父さんと母さんが居なくなった事が、とても辛くて・・・」
それを受け入れる事で、もう精一杯だった。
他に注意を向けられる余裕なんて何も無いくらいに。
「あの・・・お兄ちゃんの事を気にしてないとか、そういう事じゃなくて・・・・・・」
もう・・・、自分はずっと一人ぼっちなんだと思っていた。
明日も明後日もこの先ずっと・・・ずっと・・・・・・。
一人ぼっちで居ることが、すごく怖くて仕方なかった・・・。

「何がなんだか・・・、分からなくて・・・」
「そうだよね・・・あんなに辛い事があったんだから、カズだって必死だったよね・・・。ごめん・・・」
悲しそうな顔で苦笑いしながら高居が振り返った。
「ううん・・・・・・。でも、お兄ちゃんが犯人だとは思ってなかったよ」
嫌疑が掛けられていると聞かされた時、上総は絶対に何かの間違いだと思った。
今思えば、信じて疑わなかったからこそ、高居のことは何も考えなくても良かったのかもしれない。

高居は歩みを止めて上総の正面に立った。
「ちゃんと謝りたかった。もっと早く通報できれば、お父さんとお母さんは助かったのかもしれない」
眉を寄せならが搾り出された声は、痛みに苦しんで耐えてきた時間を思わせた。
あの出来事で心を痛めたのは、自分の他にもきっとたくさんいる。
「ちゃんと・・・通報してくれたから。それに可能性なんて・・・、考えても、考えきれないよね・・・」
悔やんでも、もう始まらない。
出掛けなければ良かったのか、誕生日じゃなければ良かったのか、どこかに確実に助かる道があったとしても今からどうにかできるわけじゃない。
忘れて前へ進むことが大切な時だってあるはず。

高居は上総の左手を取って握り締めた。
「カズに・・・赦して欲しかった。赦してもらいに来れる日を、ずっと待ってたんだ・・・・・・」
あの頃には無かった大人の気配を感じさせながら、高居は上総を真っ直ぐに見つめた。
「もう一回、ちゃんと僕達を始めたい・・・・・・」
上総を甘えさせるだけだった高居とは全く違う、一人の大人の顔をしている。
こんな風に強い決意を感じさせる姿は、今までに見たことがない。
「お兄・・・ちゃん・・・」
深く静かになったまなざしが、上総の身体の動きを封じた。

「今月、また流れるんだ。カズとの大事な約束を守れなかった。今度こそ、一緒に観に行きたい」
「お兄ちゃん・・・?」
「僕と一緒に流星群を観に行って欲しい。それで・・・そこから二人を始めたいんだ・・・・・・」

握られた手を伝う高居の強さに気圧されて、上総はただ必死にそのまなざしを受け止めていた。

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