天の川のむこう-16-

その日の帰り、上総は野崎のマンションへ行った。
別に逢えなくても良かった。
というより・・・・野崎が留守の間に少しだけ寄って帰るつもりでいた。
(喜んでくれるかな・・・)
一人しかいない部屋の中でこそこそと暫く動き回ってから、上総はマンションを後にした。

自宅へ戻った上総が 夕飯を食べ終わってのんびりしていると、案の定 野崎から電話が入った。

『上総?』
いつもより機嫌が良さそうなのは気のせいじゃないはず。
『おかえりなさい、聡示さん』
それが分かるから、上総の声も弾んでしまう。
『今日、誰か来たみたい』
野崎がクスクスと笑う。
『そうなんですか?』
ちょっとだけ知らないフリをする。
『上総に似てる』
野崎の声が一段と柔らかくなった。
『僕に?』
『最初に食べたとき、そう思ったんだ。いただきます』
上総がこっそり置いてきたワッフルに野崎が手をつけた。
『うん、おいしい。この甘さ加減がいいよね』
みんなの気持ちが嬉しかったから、今日食べて欲しかった。
上総は野崎が食べ終わるまでじっと様子を聞いていた。

『ごちそうさま』
『おいしかったですか?』
『うーん・・・・』
『あ・・・もしかしてお腹いっぱいでした?』
(しまった・・・・)
『いまいち・・・・』
『いまいち、でした?』
(もしかしておいしくない・・・・?)
『いまいち上総と違う』
『僕ですか?』
『上総の唇はもっと柔らかくて甘い』
『え?』
『上総のほっぺにはキスするのも良いけど手で触るのが好きだな』
『あの・・・』
『耳たぶは 噛むと唇より少し弾力があって、上総も好きなところだよね』
『えっ・・・』
『いつもは陽に当たらない腕の内側とか脇腹はすべすべで柔らかくて すぐ痕になるんだけど・・・』
『あのっ・・・!』
『でも もっと美味しいところがあって・・・』
『聡示さん!!』
どんどんエスカレートする野崎の発言を慌てて阻止した。

『だって上総がいけない』
『僕は・・・何もしてないです』
(こんな嫌がらせをされるようなこと、してない)
『今日、逢ってくれなかった・・・』
『ぁ・・・・・・』
『上総に逢えると思って、休み取っておいたんだ。すごく忙しかったのに・・・』
しょんぼり落ち込んだ声で言う野崎に、何も反論できなくなってしまった。
『えと・・・』
『僕、悪い・・・?』
(こういう時に勝手にバイトを入れてしまったのは・・・確かに、ちょっと・・・)
『聡示さんは・・・悪くないです』
『だったら僕の代わりに上総が確かめてみて』
『え・・・?』
『上総の唇、触って?』
『えっ?』
(えっ・・・?)
『だって逢えなくなったから、僕は触れない』
(逢えなかったのは・・・確かに僕のせい、だけど・・・)
『・・・でも、・・・』

『上総に逢えなくて、すごく・・・寂しかったんだ・・・』
一際 掠れた野崎の声に、上総の身体の奥がきゅんと反応する。

少しだけ躊躇って、上総は唇に触れてみた。
『柔らかい・・・?』
『自分のだから・・・よく分からない、です・・・』
『じゃぁ、・・・耳は?』
『ぇっ・・・』
『僕の代わりなんだから、早く』
言われるまま、耳に触れた。
『唇よりちょっと硬いかな?』
『多分・・・』

『ちょっと、目 瞑ってみて』
『ぇ?』
『いいから。目、瞑った?』
良く分からないまま、それでも上総は野崎に従った。

『・・・はぃ』
『僕にされてるんだと思って、ゆっくり触ってみて。上総に触ってるのは・・・ 僕の、指・・・』

野崎の声に操られるままに、耳の輪郭をなぞってみた。
閉ざされた視界の中で、そこに触れているのが野崎の指だと脳に言い聞かせていると、
甘い痺れが背筋の奥からじわじわ滲んでくる。
『どう・・・?』
『ぁ・・・あのっ・・・』
『そのまま、ゆっくり・・・首筋まで下ろして・・・』
『ぇ・・・』
『それは・・・僕の、唇・・・・・・』
脳に届く野崎の声はぐっと艶を増して、上総はそこへ取り込まれてしまった。
耳の輪郭をなぞりながら首筋を伝っていく野崎の唇の感触を、上総の全神経が一斉に追い掛ける。
『ぁ・・・』
皮膚に吸い付きながらやんわりと舐め上げる、野崎の舌の熱さまで思い出してしまう。
『もう少し下に・・・服の中へ入って、胸の 上に・・・・・・』
上総は操り人形のように言われるまま服の中へ手を潜り込ませた。
胸の上まで指を持っていくと、そこは野崎の声に反応して硬くなり始めていた。
『ぁっ・・・っ』
『触れているのは・・・僕の唇・・・・・・』
野崎の口の中で舌先に包まれる感覚が蘇ってきて、上総の身体の芯に小さく火が灯った。
『聡示、さんっ・・・・・・ンっ・・・』

『その続きは僕が自分で確かめるから』
『・・・ぇ、っ・・・?!』
急に素に戻った声がして、上総はハッと目を開けた。
『来週こそ逢ってくれないと、知らないよ』
『あのっ・・・』
『待ってるからね。おやすみ、上総』
『おや・・・すみ、なさい・・・』
上総が目をぱちぱちさせて状況を把握しようとしている間に、通話は切れてしまった。

(な、に・・・?)
その後上総は 中途半端に熱を持った身体を持て余しながら眠れない夜を過ごしてしまった。

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