天の川のむこう-15-

昨日に負けず劣らず、日曜の今日もフロートは大盛況だった。
カウンターへ入った上総は、忙しさのあまり高居の事は忘れて仕事に専念していた。

黒田の淹れる 『アイスコーヒー』 が飛ぶように売れていくなかで、ハンチングさんとポールさんはいつもの席でホットを堪能していた。

「年寄りは体が冷えるからアイスはねぇ」
ハンチングさんが大仰に肩を竦めてカップを持った。
「えぇ。冷房の効いたお店なんかだと、手先が痺れきて大変ですからね」
隣のポールさんが相槌を入れる。

「僕、朝から動き回って汗かいてます」
上総は苦笑いをしながら言った。
今日も上総は黒田のサポートでバタバタと走り回っている。
数珠繋ぎになったように客足が絶えない。

「槙ちゃんは若いからなぁ。いやいや、羨ましい。汗をかくのは体にいいからね」
ハンチングさんは帽子を取って顔を扇ぐような仕草をする。
「お店もずいぶん盛況ですから、いいことですよ」
その様子を可笑しそうに見ていたポールさんが、ニコニコ笑いながら返した。

「そういえば・・・ねぇ、マスター」
カウンターの端に腰掛けていた2人組が黒田に話しかけた。
黒田は顔だけやって返事をする。

「そこの席にたまに来てた・・・・・・30代くらいの人だけどさ」
その声を聴いた瞬間、上総の背筋がピクっと反応した。
「ニュースで大騒ぎになってた会社の役員さんにそっくりじゃなかった?」
「そうそう、あれ絶対本人だったよね?」
隣の男が話を盛り上げるように入ってきて、カウンターの他の客も一斉に目を向けた。

(やっぱり・・・)
野崎は黒田も認めるほどの男ぶり。
上総の欲目を抜きにしても、周囲の目の引いてしまう存在なのは、確か・・・。
誰が気づいてもおかしくなかった。
(聡示さん・・・)
世間を揺るがすほどのニュースになったのだから仕方がないけれど、恋人がこういう好奇の目で見られているのはやっぱり辛い。
時田の罪は重くても、野崎は職務上その役割を果たさなければならないだけで、決して野崎個人と繋げて欲しくなかった。
(聡示さんは時田さんを捕まえたのに・・・)
それでもこれが今の現実。
野崎がどんな人間だとか何を考えているとか、そんな事はきっと誰も考えない。

上総がしょんぼりと溜め息をついているところへ、ハンチングさんの間延びした声が響き渡った。

「さぁて、世界には自分と似た人間が3人は居るって言うしねぇ」
ハッとして上総が顔を上げると、目の前の二人はにっこり笑っていた。
「えぇ、他人の空似っていうことは良くあるものですからね」
おっとりとしたポールさんの声も、カウンター中に良く届いた。

二人の声にざわざわと周りの目が集まったところで、
「そっくりさんかもしれねぇなぁ」
すっトボケた言い方をする黒田の太い声がしっかりと重なった。
上総が黒田を見上げると、口元でニヤっと笑いながら上総を見下ろしてくる。
(この人達は・・・)
この3人は・・・多分ニュースに出ていたのが野崎だということに、とっくに気づいていた・・・。
(分かってたんだ・・・)
そんなそぶりは少しも見せなかったけれど。

名札は伊達じゃないのかもしれない。
野崎の事を分かってくれる人間は自分の他にもちゃんといた。
心強い味方を身近に発見して、上総にもパッと笑顔が戻った。
「そっくりさんかも、しれませんよね」
カウンターの二人に笑いかけながら、上総も黒田に続いた。

上総はこの店で早く野崎に逢いたいと思った。
いつものメンバーと話しをしながら、時折優しく微笑み掛けてくれる恋人に、早く逢いたい。

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