天の川のむこう-14-

翌日。

高居は昼近くに目が覚めて、直ぐに上総の実家へ向かった。
そこへ行っても会える確証など何も無かったけれど、できることは他に無かった。
『近づかないでくれ』 と忠告された後でこんなことをしていたら、
また 両親が責められて 嫌な思いをしまうかもしれなかったけれど。
それでも、止められなかった。

3年もの間ずっと側にいたのに、少しも気がつかなかった。
気づかないように目を背けていた・・・だけかもしれない。

高居にとって、上総はただの可愛い弟では無かった。

まるで 上総が他の友達と遊ぶのを拒むように、会うたびに次の約束を取り付けた。
上総が喜ぶ話題ばかりを 揃えて待っていたのは、こちらから寸分も注意を逸らさせないため。
分別のある好青年であり続けることで、上総の家族の信頼まで勝ち取った。

気がつけば、上総が自分だけの存在で居てくれることが、一番の望みだった。
上総の為に時間を作って、心を砕いて、手を焼いて、そんな事が高居の心を温かく満たしていた。
まだ高校へも上がっていない上総に そんな想いを寄せていることが 自分でも信じられなくて、
気づかないフリを していただけ───。

気持ちを自覚した瞬間、上総への思いを封じ込めていた水源のふたが開いてしまった。
後から後から湧いてくる 愛しさに、体ごと すくわれてしまいそうになる。
温かくて切なくて、そして、今の自分には 途方もなく 重く感じる 愛しさを抱えながら歩いていた時、焼け崩れた家の前に、呆然と佇んでいた上総を見つけた。
ハッとして、高居は慌てて駆け寄った。

『カズ!』
呼ばれる声に、上総の体がビクっと反応したのが分かった。
上総は色の無い目をしてゆっくりと振り向いた。
『カ、ズ・・・』
全く覇気の無い抜け殻のような上総に、高居は何を言ったらいいのか分からなくなってしまった。
『・・・カズ・・・』
上総は高居から目を逸らして、黒こげの残骸に体を向けた。
『誕生日・・・、だったから・・・』
抑揚の無い声でぽつりぽつりと語りだす。
『僕の誕生日で・・・だから・・・・・・お酒をね、飲んだんだ・・・・・・』
『カズ・・・?』
『なんで・・・・・・なんで・・・っ、僕は・・・家に、っ・・・居なかったんだろう・・・』
『カズっ・・・』
『僕だけ・・・・・・なんで・・・っ・・・僕、だけ・・・っ』
『カズ・・・っ、カズっ・・・!』
『家にっ・・・・・家に居ればよかったっっ・・・・・・!!』

とうとう泣き始めた上総を、高居は力いっぱい抱きしめた。
『カズは助かったから、カズは助かって良かったんだっ・・・!』
大きく肩を揺らしながら叫び声のような声を上げて上総は泣き続けた。
『カズは何も悪くないっ・・・、カズは悪くないんだっ・・・!』

上総の気持ちが落ち着くまで、高居は何度も繰り返した。
上総が自分を責め続けて、自分で自分を傷つけてしまわないように。
奇跡的に生き残ってくれたことを、自分から後悔などしないように。

『カズは何も悪くない・・・。カズは、悪くないんだ・・・・・・』

もう涙が底を付いてカラカラになってしまうのではないかと思うほど、上総は高居の胸で泣き続けた。

そうして・・・・・・
何とか涙の収まった上総は、自分から顔を上げて高居に別れを告げた。
『僕・・・引っ越すことになったんだ・・・』
『・・・聞いたよ』
『彰お兄ちゃんには・・・言ったら、いけないって・・・』
『・・・分かってる』
『僕・・・、もう行かないと・・・・・・』
『これからすぐ、行くの・・・?』
『うん・・・ごめんね・・・・・・』
『・・・カズは、悪くない・・・』
『お兄ちゃん・・・消防署に連絡、してくれたんだよね・・・?』
『・・・間に合わなくて、ごめんね・・・』
『でも・・・お兄ちゃんが連絡してくれたから・・・・・・』
上総は高居の腕を解いて、通りの方へ走っていった。
『カズっ・・・!』

『お兄ちゃん・・・ばいばい』
上総の声が高居の耳に響き渡った。

いつものように、可愛い笑顔で振り返りながら 『また明日ね』 とは言ってくれなかった。

目次へ...

Leave a comment

Private :

Comments

- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -
12 02