天の川のむこう-13-

高居は火事の第1発見者で消防署へ連絡したのも彼だった。

逃げていく人影を目撃していて、高居は警察署で調べに応じることになった。
ところが、警察署でその日の行動を話しているうちに、高居自身に嫌疑が掛けられてしまった。
通報までに、時間が掛かり過ぎていたのだ。

高居はその日、家庭教師のバイトをしていた。
いつもより大幅に長引いてしまっていたのは、バイト先の父兄によって証明された。
そしてその日の夜に上総と出掛ける予定であったことは、上総本人の証言で証明された。
待ち合わせ時間を遥かに過ぎてしまい、もうとっくに帰っているだろうと思って、直接自宅を訪ねたところまでは警察も信用してくれていた。

しかし、家庭教師をしているバイト先の家から上総の実家までの移動時間を どれだけ甘く計算してみても、不自然な時間の隙間が残ってしまったのだ。

高居はそれからまる2日間警察に留められた。
通報が遅れた理由を 『気が動転していたから』 と答える高居の言葉がなかなか信じてもらえなかった。
結局 3日目の朝になって、高居の目撃情報と同じ人物が自首した事で彼の疑いはようやく晴れることになったのだった。


高居は、釈放されたその足で上総の実家まで急いで向かった。
そこへ行けばもしかしたら上総に会えるかもしれない。
一刻も早く上総に会いたい、その一心だった。
けれど、焼け跡は敷地を取り囲むようにロープが張られていて、物見遊山をする近所の住人がただ遠巻きに見ているだけだった。

上総が火事に巻き込まれずに無事であることは、警察から聞いて知っていた。
なかなかやって来ない自分の事を長い時間待っていてくれたのが、上総の命を救ったのかもしれない。
上総が助かっていてくれた、それだけが高居にとってせめてもの救いだった。

とてつもない罪悪感に襲われて、高居は鉛の沼の底に這いつくばるような思いでいた。
肩の上にいくつも重石を載せられたように がっくりと首を垂れて、重い足取りで自宅へ戻っていった。

『ただいま・・・・・・』
『彰っ・・・・・・!』
血相を変えた両親が高居を玄関まで迎えに来た。
『大丈夫・・・犯人は捕まったから・・・』
『ご夫婦は・・・亡くなったそうよ・・・』
母の声は涙混じりだった。
何度も泣いたのだろう、仲の良かった夫婦の不幸と、息子へ掛けられた嫌疑ですっかり疲れ果てているのが、よく分かった。
『カズはっ?カズはどうしてる?』
まずは上総と会って話しがしたかった。
いろんなことが行き違ってしまって、全てを自分の口から説明したかった。
『親戚の方に引き取られることになったんですって・・・』
『どこにっ?今はどこに居る?』
高居は上総の居場所を聞き出そうと、母の肩をぐっと掴んで揺らした。
しかし父も母も渋い表情で黙り込んでしまう。
『どうしたんだよっ!父さん、何があったんだよ!』
『彰、上総君の行く先は・・・うちには教えてもらえない・・・』
『教えてもらえないって・・・どういう・・・こと・・・?』
父は顔を背けて俯きながら答えた。
『上総君には・・・会って欲しくないそうだ。近づかないでくれと、釘を刺された・・・』
『そんなっ・・・僕は、犯人じゃないっ・・・・・・!』
『お前がやっていないのは皆分かってる。いいな、上総君には・・・もう近づくな・・・・・・』
『なんだよっ・・・!僕はっ・・・・・・!』

絶望的だった。
高居はこの世の全ての希望が絶たれたような暗闇に堕ちていった。

警察に居る間・・・・・・いや、火事の現場に居合わせる前から上総のことだけを考えていた。
無事で居てくれることだけを、ただひたすら願っていた。
自由の身になったら、まず最初に会いに行こうと思って、ただそれだけを・・・心の支えにしていたのに。

無実は、証明されたのに・・・・・・。

錆びた刃物でじりじりと胸を裂かれるような痛みに、思わず息も忘れてしまいそうだった。

それは・・・・・・
長い間 心の中に 清らかに澄み渡っていた上総の存在の意味を、はっきりと知らしめられた瞬間だった。

せめてもう一度会いたいと思えば思うほど、白く輝く珠のような上総の存在が高居の胸を締め付けた。

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すみません、改稿前のが一度でてしまいました・・・(汗)

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