天の川のむこう-10-

「カズとゆっくり話しがしたいんだ」
真面目な顔をして上総を見下ろしてくる姿には、根っから誠実な彼の性格が、滲み出ている。

二人はとても仲が良くて、この角度で目を合わせていつも話をしていた。
時間なんて少しも経っていないのかもしれない。
そんな錯覚さえ起こしそうになる。

「これからバイトだから・・・もう、行かなきゃ」
拳の中に感じるプラチナの硬い手触りに呼び戻されて、上総はモヤの掛かった思い出の中から抜け出した。

「そうか・・・休みだと思ってた。何時くらいに戻る?カズが迷惑じゃない時間で、いいんだ・・・」
ゆっくりと、やさしい声で話す様子もちっとも変わっていない。

いつもそうだった。
どんな時でも上総のことを優先してくれていた。
帰る時間を決めるとき、遊びに行く時間を決めるとき、外食のメニューを選ぶとき、次に買う本を決めるとき。
自分の意見があまり言えない上総を気遣って、先回りしていくつもの選択肢を用意してくれていた。

その相変わらずの優しさは、とても嬉しいけれど・・・。

「バイトは・・・帰りが遅い、から・・・」
突然の再会と同時に 止まっていたものが一度に動き始めたせいで、上総の心はざわざわと波打って混乱していた。
続けざまにこんな気分にさせられては、バイトから帰った疲れた身体で耐えられそうもない。

「そうだね、こんな突然やってきて・・・、カズもびっくりするよね。ごめんね・・・」
申し訳なさそうに苦笑した彼は、ベージュのジャケットの内ポケットから携帯を取り出した。
「携帯持ってるなら、番号教えてくれる?今度ゆっくり時間が取れる時にしよう?」
「ぁ・・・うん・・・」
携帯を見たまま返事を待っているところへ、上総は自分の番号を告げた。
上総の番号を登録した後で、彼は1枚の名刺を取り出した。
「会社の名刺だけど携帯番号書いてあるから。カズも登録しておいて。ごめんね、出掛ける途中だったのに」
そう言って、右手を上総の頭にポンと載せた。
その癖も・・・、変わらない。
「うん・・・」
頭に感じる彼の手の感触も、変わらない・・・。
「あ・・・。大学生なのに、こういうのは子供扱いだよなぁ。でもカズは・・・ちっとも変わらないから・・・」
彼の手はそのまま髪を撫でていった。
そうやって、髪を撫でられることもよくあった。
「また連絡するから。今日は帰るね」
やさしい笑顔をして軽く手を上げて、彼はそのまま通りの方へ消えていった。


一人になった上総は、大きく深呼吸をした。
まさか、7年も経って・・・、彼にもう一度会うとは思ってもみなかった。

まだ家族3人の楽しい暮らしを送っていた頃。

高居彰は近所に住む大学生で、上総の家とは母親同士がとても仲が良かった。
自然と子供同士の交流が始まって、2つの家庭は家族ぐるみの付き合いをするようになっていった。
お互い一人っ子だったせいもあって、上総は彰を兄のように慕っていた。
高居も弟のように上総を可愛がっていて、それは上総が中学へ入った頃からの付き合いだった。

二人が遊ぶ時は必ず上総が高居の部屋へ行った。
高居が収集していた惑星の写真集を眺めながら、飽きることなく話をした。
色々な資料を集めていた高居はとても博学で、上総は二人で居る時間がとても気に入っていた。
そうして帰りが遅くなる時は、高居がいつも上総を自宅まで送って行ってくれていた。

帰る時には必ず次の約束をしていて、あの日も・・・、高居と会うはずだった。

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