天の川のむこう-6-

昨日から気の滅入る仕事に追われていた野崎は、9時を回ったところでようやく目が覚めた。
鉛のように重い体を起こして大きく息を吐く。

何とか時田の悪事を暴くことには成功したが、その影響は想像以上に大きかった。
汚れた金の鎖でずるずると結びついた企業や団体が次々と明るみに出て、かなりの数の顧客と信用を失った。
これから先の残務処理を考えると、溜め息の数も知らずに増えいく。

それに・・・・・・。
世間に正体を晒した身では、しばらくの間は自由な行動が取れない。
この騒動が新しいニュースで塗り替えられて 人々の記憶から遠のくまでは、我慢を強いられる日々が続くはず。
それが何より苦痛だった。

野崎は携帯を手にとって上総の番号へコールした。
呼び出し音に続いて、1週間ぶりに聞く上総の声が聞こえてくる。

『聡示さんっ?』
慌てて電話に出た上総の可愛い声に、イライラと尖っていた気分も宥められる。
『上総』
『あのっ・・・・・・あの・・大丈夫、ですか・・・?』
おどおどしながら気遣っている様子を見ると、上総もやはりニュースを見たのだろう。
情の深い上総は自分のことのように心を痛めたかもしれない。
『あっという間に有名人になった。カッコ良かった?』
『そんな・・・・・・』
面白おかしく言ってみても、上総の性格では笑えないのも仕方ない。
いちいち素直な反応をする様子に、また一段と愛しさがこみ上げる。

『上総。今日、待っててくれたんだよね?』
『ぁ・・・はい』
二人の声がまろやかになる。
『すごく嬉しかったんだ。間に合わなくて、ごめんね?』
『ぃぇ・・・。聡示さん、大変だったから・・・』
『僕は上総と入れ替わりに帰ってきたみたい』
『えっ・・・』
『バスローブがまだ温かかったんだ』
『そんな・・・・・・。僕、もう少し居れば良かったんですね・・・』
どこまでも素直な反応をする上総の声が落ち込んだ。

『僕が待たせちゃったからいけないんだよ。昨夜から、居てくれたんだよね?』
『そう・・・なんですけど、途中で寝ちゃってました』
『上総ソファーで眠ったんじゃない?』
『ぇっ・・・どうして分かるんですか?』
上総の性格では、ああいう状況でベッドで悠々と眠るのはまず無理だろう。
それに・・・
『ベッドそのままだったし、ソファーからね上総の匂いがしたんだ』
『聡示さん・・・』
『僕もソファーで眠っちゃった』
結局は逢えなかった。
それでも、上総の気配を追いながら穏やかな気分になることができた。

明日こそは。

『明日は何してるの?』
『えと・・・・・・』
少しの間ができる。
こんな歯切れの悪い言葉は・・・・・・できれば聞きたくなかった。
『バイト?』
思わず返事を急かすような言い方をしてしまう。
『お店が一番忙しい時期になって、朝から手伝うことになって・・・・・・』
弱々しい声は尻すぼみになって、そのまま黙り込んだ。

『今日は?』
『ぇっ・・・』
『これから逢えない?』
日付が変わるまで、もういくらも時間が無い。
『あの今日は・・・・・・今日はすごく疲れてて・・・』
上総もこれには困った様子になった。
『上総は逢いたくない?』
まさかここまで余裕の無いことを言ってしまうなんて・・・、さすがに自分でも驚く。
『ほんとに・・・今日は疲れてて、すみません・・・』
無理を言っているのは十分に分かっているけれど・・・。
『そうだね。ごめん』

少なくとも昨日は泊りがけで待っていてくれた事は事実だし、自分はそれをすっぽかした形になる。
この嫌な状況を作ったのはこちらの都合で、決して一方的に上総を責められる立場ではない。
・・・それは、分かっているけれど。

『逢いたかっただけなんだ。困らせてるわけじゃないよ』
『聡示さん・・・』
『もう一週間、逢ってないからね。声が聞けたのも一週間ぶりだ』

欲しがって、上総。
もっと僕を欲しがってくれていい。

『聡示さん・・・・・・。僕も、逢いたい・・・』

それなら もっと、もっと・・・気持ちのままに向かってきてくれていい。
『いつまで』 とか 『どこまで』 とか、そんな事を考えられないくらいに。

『来週の土曜は逢える?土曜は1日空けられる』

逢うたびごとに伝えてあげるから。
どれほど上総を欲しいと思っているか・・・。
上総の全てに刻み込むように。

1日でも早く、同じ強さで 僕を想ってくれるように・・・。

『はい・・・。逢いに行きます、聡示さん・・・』
『待ってるから。おやすみ、上総』
『おやすみなさい、聡示さん』

今度こそはすれ違わずに、確かに逢える約束を取り付けて、野崎は通話を終わらせた。

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