天の川のむこう-4-

上総は もと居たソファーで目を覚ましていた。
(朝だ・・・・・・)
うすぼんやりした記憶を1つずつ辿って、シャワーを浴びた後でまた眠りこけてしまったことを思い出した。
ソファーに座った体勢で電気も空調もスイッチを入れたまま、昨夜と何も変わらない様子の部屋に、白んだ朝日が差し込んでいた。

野崎は・・・・・・帰っていない。
(聡示さん・・・)
嫌味なほど広いリビングで意識は徐々に覚醒して、上総の気持ちは少しずつ塞ぎ込んだ。
昨夜から何も食べていないせいか、いつもより身体に力が入らない感じがする。
バスローブだけを纏った身体は空調ですっかり冷やされて、一人きりの寂しさが助長されるようだった。
(帰ろう、かな・・・)
折りたたんでおいた服をだらだらと拾い上げる。
重い手足を持ち上げて服に身体をくぐらせて、上総はカードキーをポケットに入れて部屋を出た。

1階のエントランスまで降りて、正面の入り口を注意深く確認する。
まだ7時を回ったばかりの土曜の早い時間のせいか、昨日の報道陣は居なかった。
これなら、野崎が帰ってきても嫌な思いはしないかもしれない。
(良かった・・・)
それでも上総は無意識に、入ってきたときと同じ裏手の出入り口からマンションを出ていた。
寂しく落ち込んだ自分には、スタイリッシュで華やかな正面の入り口が似つかわしくない気がしていた。


上総がマンションを出てすぐ、それと入れ替わるように野崎が部屋へ戻ろうとしていた。
記者会見直後からまったく身動きが取れなくなり、社内の調整と外部業者との連絡に追われて深夜まで仕事に拘束されていた。
悪行を行った会社の責任者として時の人間になってしまった事で、自宅へも人が集まる事を予想していた野崎は会社で夜を明かしていた。
まさか世間が大騒ぎしているこの日に、上総がやって来るとは思ってもみなかったのだから。

玄関へ一歩入った野崎は、すぐに異変を感じた。
季節はもう夏に入ったというのに、さらっとした心地のいい冷気が漂っている。
それに・・・確かに人が居た気配がする。
慌てて部屋へ入った野崎は部屋中を確認して回って、使われた形跡のあるバスローブを見つけた。
(上総が来た?)
隈なく冷やされた部屋の状況を考えると、この日の早い時間に来たとは考えにくかった。
野崎は急いで携帯を手にして上総の番号へコールした。
(圏外・・・もう電車か・・・)

ソファーへドサッと身を投げて、野崎は上総の気配を追った。
もしかするとあと数分違っていれば、ここに上総待っていた可能性は大きい。
それを考えると、行き違ってしまったのは確かに歯がゆい思いがするのだが・・・。

あれほど渋っていた上総がここで夜を明かしたのだと思うと、なんとも言えず気持ちが高揚した。
こんな時だからこそ待っていてくれたのか、そんないじらしい姿を勝手に想像して心がせつなく緩む。
目が覚めたらすぐに連絡して、明日こそは側に置いておこうと決意して野崎は眠りについた。

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