天の川のむこう-2-

ニュースは終わって、上総はテレビの前で佇んでいた。
事の重大さが理解できてくると途端に大きな不安に襲われる。
野崎が言っていた 『忙しい』がどのくらいのものなのか、もしかすると自分はあまりにも楽観的に考えていたのではないかと自覚し始めた。

(本当に大変なことになってるんだ・・・)

まだ夕方。
電話をしたくてもあの様子では今は話ができるとは思えないし、まだ勤務時間のはず。
メールにしても何をどう書いていいものか困ってしまう。
『大変なことになってますね』 『大丈夫ですか?』 『忙しいですか?』
思いついたものはどれも陳腐で、第一 そんなことはニュースにもなっているのだから分かり切ったこと。
自分が心配したところで、事態が良くなることも無い。
上総は気持ちがそわそわしてきて、じっとしていられなくなった。

(マンションで待ってようかな・・・)
野崎からは 『時間さえあればいつでも来ること』 とうるさい程に念を押されたし、元々今日は行くつもりでいたのだから、待つ時間が少しくらい長くなっても構わない。
部屋へ戻った上総は野崎にもらったカードキーを持って急いで出掛ける準備をした。
「かずちゃん、どこか行くの?ご飯は?」
玄関まで出掛かったところで祖母に呼び止められる。
「友達のところへ出掛けるから、ご飯はいいよ」
背中を向けたまま応えて、上総は急いで玄関を出た。

野崎のマンションは偶然にも大学の最寄駅から近いところにあって、上総はいつもの通いなれた駅で電車を降りた。
一度だけ車で行った場所を思い出しながら歩いて、大きな通りを1つ入ったその時だった。
大勢の人間のざわめきが聞こえてきたかと思うと、向かおうとしていたマンションの入り口に人だかりが出来ていた。

(なんだろう・・・)
少しずつ近づいてみると、それはテレビの報道陣なのだと分かった。
マンションを背にしてマイクを持つ人間が数名いて、それを撮影するクルーでごったがえしていた。
嫌な予感がして、上総は遠巻きにそれを見ていた近隣の住人らしき人に声を掛けた。
「あの・・・何かあったんですか?」
「あれ知らないの?今日大きなニュースがあったでしょう、なんとか企画っていう会社の不祥事。そこの責任者が住んでるんですって」
「えっ・・・」
その人だかりは、まさに野崎を追いかけていた。
嫌な予感が的中して動悸が激しくなる。
「今日テレビに出てたのよ、その人」
「そう・・・、ですか・・・」
噂話の好きそうなその女性に上の空で応えて、上総はどうしたものかと考えた。

(どう、しよう・・・)
正面から入って行ってもしもあの人たちに何かを聞かれたら、その時はどうしたらいいのか。
住人ならともかく、堂々とあの中を通っていけるほどの度胸はない。
(裏手なら・・・)
野崎と一緒に来た時に使った駐車スペースの方の出入り口なら大丈夫かもしれないと思い立って、上総は大回りをして駐車場へ向かった。
人目を避けるようにして出入り口へ行くと、警備員らしき人間が入り口を挟んで立っていた。
「現在、出入りは規制中です。住人の方ですか?」
強持ての屈強そうな二人に見下ろされて、上総はしどろもどろになりながら返事をしてカードキーを見せた。
「はっ・・・はい、あの・・・これっ・・・」
それを見た二人は少しだけ緊張を解いて、『ご迷惑をお掛けしてます』 と小さく言って道をあけてくれた。
上総は逃げるようにエントランスへ向かって、野崎に教えてもらった手順を繰り返して急いで部屋に入った。

(はぁ・・・)
駆け込んだ野崎の部屋。
広すぎるリビングのゆったりとしたソファーに腰掛けて、上総は大きく溜め息をついた。
人生の中で、まさかこんな経験をするとは思ってもみなかった。
人の注目を浴びたり大勢の人の前で何かをしてみたり、そういう事とは全くの無縁だったのに。
慣れない事を経験をして疲れた上総は、そのままソファーで眠り込んでしまった。


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