星空に触れて-122-

金曜日。
藤堂が言っていたとおり1台の黒塗りの車が迎えに来た。
前日からいそいそと準備に抜かりのなかった祖父母は、風のように去っていった。

そろそろ・・・行こうかな。

今年で7回目。
高校に入ったときからこの日の過ごし方は決まっている。
上総は携帯と財布を持って電車に乗った。

大学とは反対の南の方へ1時間ほど下ってローカル線に乗り換える。
見慣れない田園風景の中を30分ほど揺られて電車を降りた。
閑散とした駅前の道を山の手に少し歩くと、通い慣れた花屋に差し掛かる。
「こんにちわ。百合を・・・」
40代くらいの店の女性は、この日に毎年やってくる上総の顔をもう覚えていた。
「こんにちわ」
落ち着いた声でそれだけ言って、大きく花を開かせた真っ白い百合を束ねてくれる。
「これくらいで良いかしら?」
花弁を壊さないように緩く2つに束ねられて、両手で抱えるほどの大きさに出来上がっていた。
「はい、お願いします」
支払を済ませると、きれいな形に整えられた束を2つ受け取ってまた山の手に向かって歩く。

5分ほど歩くと、両側を青紫の紫陽花に彩られた石畳に出た。
見事な紫陽花は毎年同じように変わらず咲き誇って、時間が止まっているように錯覚してしまう。
小道の入り口で水を汲んで細い砂利の脇道を歩いていると、槙村の墓地の前に着いた。
水鉢と花立の水を入れ替えて、太陽のように咲き誇った百合を供える。
「お父さん、お母さん・・・。元気でやってるよ」

去年までとは違う今日。
「いろいろあったけど、大学辞めなくてよくなったんだ。それから・・・」
この日に、自分の誕生日を祝う予定を入れられる日が来るなんて・・・。
「好きな人ができたんだ。それは・・・・・・また今度話すから」
野崎のことは、短い時間では語りつくせない。
「また、来年来るよ」
上総は一度だけ振り返って、もと来た道を駅まで歩いた。

来たときと同じように長い時間を電車に揺られて上総は家まで戻ってきた。
いつもなら祖父母に迎えられるはずが今日は静かな中に一人取り残されている。
「何でもかんでも違っちゃったな・・・」
これまでとは全てが変わったけれど今が一番いい。

バイト行くかな・・・
上総はひっそりとした家をもう一度出てバイトへ向かった。

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