星空に触れて-121-

車は15分ほど走ってその場所に着いた。
涙の跡を拭った上総は、黙って歩く野崎の後をついていった。
日が傾き始めて、見上げるとオレンジ色の空がどこまでも広がっている。

連れて来られたのは、子供づれの親子で賑わう大きな公園の前だった。
そこには外周を等間隔に杭で打たれた更地があった。
「ここに建てるんだ。あのプラネタリウム」
更地に目を向けたまま、野崎が静かに言った。
「ここに・・・」
上総も更地に目を向けた。
「連れて来たいと思ってたんだ」
「僕を、ここに?」
「そう。あの模型を初めて見せたとき、ここへ連れて来ようと思ってたんだけど」
苦笑しながら言う野崎に、上総も苦笑して応える。
「僕、誤解したまま逃げちゃったから」
苦しんだあの日のことは、もう随分遠い記憶のような気がする。
「もう逃がさない」
背中に夕日を纏った野崎が、確かな決意を滲ませて告げた。
指先が少しだけ触れていた右手を、繋ぎ止めるように握られる。
「上総との間を隔てるものは何も無くなったから。もう遠慮はしないよ」
「聡示さん・・・」
野崎の深く強いまなざしは上総が一番好きな色をしている。
こうやって隣から顔を見上げる時間をとても愛しいと思うようになった。
「いいだろう?」
野崎を好きでいることは、きっと綺麗事ばかりじゃない。
この恋を受け入れる時だってあんなに苦しかったのだから。
だけど・・・。
「・・・はい」
誰に言えなくても誰に認められなくても、想う人に想われている。
だから僕はこの人の隣に居たい。
上総の返事を聞いた野崎は男らしい笑顔を見せた。
「帰ろうか」
そう言って 野崎は上総の手を取ったままゆっくり歩いて車に戻った。



そして自宅へ向かう車の中。
「そういえば、温泉喜んでくれた?」
「あ・・・やっぱり。あれ聡示さんだったんですか?」
藤堂に渡されたあの封筒の中身は、やっぱり。
「もう歩けるって聞いたからね。夫婦水入らずも良いと思って」
「もしかしてっ・・・真島さんの電話って、その確認だったんですか?!」
野崎は口元だけ微笑んだ。
「僕がそうしたかったんだ。迷惑だった?」
「迷惑だなんて・・・。二人ともすごく楽しみにしてます」
藤堂が言った【責任者】は、野崎のこと。

「これで僕達も心置きなく出掛けられるよね」
「出掛ける?」
何の事だか分からないという顔をして上総は野崎を見た。
「上総の誕生日。プレゼント用意してるって言ったのに。忘れたの?」
「え?」
「二人でベッドで電話したとき」
「えと・・・」
・・・覚えてないです。
「僕と一緒に眠りたいって言ったよね?」
「えぇ?」
「『おやすみ』 だけじゃなくて 『おはよう』 も言ってくれるって、約束した」
「えぇっ?!」
・・・それって本当?!
「上総も楽しみにしてるって言ってくれたのに」
「・・・」
「上総ひどい・・・。忘れてるんだ?」
「そんな・・・」
「楽しみにしてたのは僕だけだったんだ・・・。ショックだな・・・」
「そんなっ・・・そんな事ないです!僕だって、金曜日楽しみにしてましたっ・・・!」
「そうだよね。良かった、上総も楽しみにしてくれてて」
「は・・・ぃ」
・・・眠いからってなんて事言ってるんだろう僕
「日曜には帰って来ようね」
「日曜っ?!」
「二人が温泉から帰ってくる前には家に着くように送っていくから、心配しないで」
「それってっ・・・」
「夫婦水入らずが二組になるんだから、めでたいよね」
「あのっ・・・!」
「楽しみだよね?」
「は・・・はぃ・・・」
・・・それってほんとに・・・本当なんですかっ・・・?!


そして上総はいつもの場所で車を降りて、釈然としないまま家へたどり着いた。

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