星空に触れて-120-

藤堂と真島は、それから30分ほどで帰っていった。
予期しなかった週末の予定に祖母は上機嫌になり、祖父と祖母はいそいそと翌日からの準備を始めている。
そんな中、上総は一人 取り残されていた。
「上総、留守番たのむぞ」
いかにも渋々同意したようなフリはしていても、その実祖父も浮き足立っている。
「うん・・・」
人間は急激な事態の変化に直面したとき、ただ立ち呆けているしか できないのかもしれない。
そんなことを考えながら そわそわと動き回ってる二人を眺めていたとき、上総の携帯が振動した。
聡示さんだ・・・!
上総は急いで部屋に戻って電話に出た。
『上総?』
『聡示さん、いま連絡しようと思ってて』
『ちょうど良かった。今出られる?』
『大丈夫ですよ』
『あと5分くらいで着くから』
そういうと、野崎は通話を切った。

あと5分って・・・こっちに向かってる・・?!

上総は携帯を持って急いで家を出た。
走り着いた大きな角を一つ曲がった先、そこに野崎はもう着いていた。
そこはいつも上総が送り届けてもらうお決まりの場所。
助手席のウィンドウが下がっていて、運転席から野崎が顔を見せた。

「乗って」
促されるままに助手席に乗り込むと、車は流れに混じって走り出した。
「さっきまで藤堂さんと真島さんが居たんです」
「聞いたよ。全部、上手くいったんだね」
包み込むような野崎の声に、いきなり泣きたい気分になった。
「ありがとうございました・・・。僕、大学も辞めなくてよくなって・・・」

なぜだろう、さっきまでは何とも無かったのに。
野崎の顔をみて声を聞いた瞬間に、何かが胸の奥から込み上げて来そうになる。
「ほんとに・・・家も売らなくていいんですよね・・・。嘘、みたいです・・・」
気配だけでも野崎は優しくて、何も言わないのに、右側から温められる。

そうっか・・・僕はずっと心細かったんだ・・・
いつからこんな、弱虫になったんだろう・・・。

「もう終わったんだ。全部、上手く行ったんだよ」
上総のほうを少し見て穏やかな声で話す野崎に、上総の心がまた震える。
「上総・・・?」
自分の中に、こんなにも恋人の存在が大きく広がっていただなんて・・・
「泣かないで、上総」
静かな声はいつでも上総の味方でいてくれる。
野崎の左手が、俯いた上総の髪を何度か撫でていった。
「いいよ・・・。もう少しだからね」
野崎はそれ以上なにも言わず、車を走らせた。

聡示さん・・・、聡示さん・・・。

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