星空に触れて-118-

「!」
目が覚めると、手の中に携帯。
通話はいつの間にか切れている。

「・・・寝ちゃったんだ・・・」
どこまでも自分が情けなくなって、上総はドサっと枕に顔を押し付けた。
何を話したかなんて、まるで記憶に無い。
「せっかく聡示さんと・・・」
自分から初めて掛ける電話にかなり緊張しながらも、野崎の声を聞いた瞬間に体中が幸せいっぱいになった。
の、だが・・・。
野崎の柔らかく優しい声音はあまりにも耳に心地よく、ここ数日間は緊張の連続だった上総にとって、それは麻酔と同じだった。
「何やってるんだよ・・・」
泣きそうな気分のまま携帯を見ると、メールの着信を告げるランプが光っている。
「聡示さんだ・・・」
上総はびくびくしながらメールを開いた。

【 おはよう上総。今日はとても良い気分で目が覚めたよ。
 上総の可愛い寝息を聞きながら眠ったからね。全て上手く行く。あまり心配しないで。】

怒って、無かった・・・けど寝息とか恥ずかしすぎるよ・・・
上総も急いで返信した。

【 おはようございます 聡示さん。ごめんなさい寝ちゃいました。それと、ありがとうございます。
 祖父と祖母を信じてます。いってらっしゃい 聡示さん 】
携帯を閉じると、上総は情けない思いで台所へ向かった。

「おはよう、かずちゃん」
いつものように微笑みながら祖母は朝食の用意をしていた。
「おはよう」
「上総、面接なんだろう?」
先に朝食を食べ始めていた祖父が声を掛けてくる。
「うん。午後からだから出掛けるにはまだ時間があるんだ」
「まぁ、いつものようにやればいいさ」
言葉の少ない祖父なりに、上総のことを応援してくれている。
「うん。まだ一つ目だし、腕試しのつもりでやるよ」
とは言っているけれど。
今でも就職なんてしたくはないし、大学だって辞めたくはない。
そうならない為にも、今日は・・・

上総は祖父の脇に置かれたボイスレコーダーを見た。
「今日・・・多分来ると思うよ、時田さん・・・。弁護士さんに言われたから・・・」
今はまだ、その情報を手に入れた経緯を説明する訳にはいかない。
だから、時田が確実にやってくることも言えない。
「昨日も言ったじゃないの、いつ来てもおんなじ」
祖母は相変わらずにこやかに言う。
「お前は心配性なんだ。いまさら驚きはしないと言ったろう」
どっしりとした祖父のその言葉に、上総はもう何も言わないでいい気がした。
「そうだよね。僕居ないけど・・・お願いするね」
それだけを伝えて、笑顔を返した。


それから2時間後、着慣れないスーツに革靴を履いて上総は玄関に立っていた。
「じゃ、行ってくるね」
「頑張ってね。かずちゃんなら大丈夫」
「ありがとう。じゃぁ・・・お爺ちゃん、よろしくね」
「心配するなと言ったろう」
「うん。じゃ、行ってきます」
二人に見送られて、上総は駅に向かった。
玄関を出る一歩が、いつもよりずっと重く感じた。

ここから先は、もう祖父母を信じるしかない。

駅へ向かって歩いていると、ポケットの携帯が振動した。
登録されていない番号を不審に思いながらも、通話ボタンを押してみる。
『あ、シュガーちゃん?真島だけど。おはよー』
『真島さん?!』
朝から軽快なテンションのその声は、間違いなく真島だった。
『この番号、俺の携帯だから登録しておいてくれる?』
『あ・・・はい。あの・・・おはようございます』
『はいどうも。でね、お婆ちゃんの具合どう?』
『え?あ、だいぶいいです』
『一人でも歩ける?』
『歩けますよ。杖はなくてもいいみたいです。遅いですけど・・・』
『そうっか。じゃぁ大丈夫かな。うん。おっけー。ありがとう。じゃね』
『え?真島さん?!』
『あ、面接頑張ってね。あぁ・・・それはちょっとおかしいよね』
『はぁ・・・』
『じゃ、またねー』
『えっ?』
ツーツーツー・・・
そしてそのテンションを維持したまま、話は終わった。

何なんだろう・・・
不可解な思いを抱いたまま、上総は携帯を閉じた。

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