星空に触れて-116-

バイトが終わって、上総は一目散に家へ帰った。

「ただいま」
ドアの鍵を掛けてバタバタと台所へ向かうと、祖父と祖母がテーブルで向き合っていた。
真ん中には、ボイスレコーダー。
「かずちゃん、お帰り」
上総の心配を余所に、祖母の機嫌は良い。
「ただいま。どう?使ってみた?」
あまり大きな成果は期待しないように聞いてみた。
「これ、使ってみると面白いのねー。お爺さんったら、自分でも買ってみたいなんて言うのよ」
「使ってみれば何てことないじゃないか」
祖父が腕組みをして自慢げに言った。
「へぇ・・・」
上総は想像していなかった展開に、少し面食らっていた。

「それで、どんな感じ?」
上総が聞くと、祖父と祖母は交互にボイスレコーダーを使ってみせた。
上総がさらに驚いたのは、その後の祖父母の行動だ。
「これね、こういう機能がついててね・・・」
祖母はこの機能はどうした、どの機能はどこをどうする、と、上総も教えられなかったことを説明し始めた。
「そう、なんだ・・・」
「おいおい、それよりこっちをこうするのが早いだろう」
そして、祖母の説明を聞いていた祖父がさらにその上を行く説明をし始めたとき、上総は完全に脱力した。
「すごいね・・・お爺ちゃんもお婆ちゃんも・・・」
上総は呆気にとられながら夕飯を食べ始めた。
「上総もこれくらい使えなくてどうする?」
そう言って、祖父は祖母の声を録音しては再生し、削除してはまた録音して遊び始めた。
「あ、うん・・・。そうだよね」
昨晩から緊張しっぱなしだった上総はすっかり拍子抜けして、もはや自分を越えた二人の成長ぶりを、ただぼうっと眺めながら食事を終えた。


風呂から上がって部屋に戻った上総は、一人面接の準備をしていた。
何持って行けば良いんだっけ・・・。
祖父母の心配ばかりしていたくせに、自分のことは何一つ出来ていない事に気が付いて、思わず一人笑ってしまった。
バックの中身を確認してクローゼットの中のスーツに手を掛けたとき、ふと恋人の顔が脳裏をよぎる。
何、してるかな・・・
『電話していいから』 とは言ってくれたけど・・・
上総は携帯を持ってベッドに上がった。

野崎のことは心から想っているし、自分のこともそう思ってくれているとは信じていても、ただでさえ年の離れた大人の恋人は専務という肩書きまで持っていて、正直なところまだその壁は大きく感じてしまう。

こういう時だし、まだ仕事してるかもしれない・・・
上総は野崎の番号を表示させたまま、液晶を眺めていた。
その名前を見ていると、今朝とも昨夜とも言える真夜中のオフィスで 野崎と過ごした甘いひと時を思い出してしまう。
そのうち一人でいることが途端にせつなく感じてきて、ほんの少しでも野崎との接点が欲しくてたまらなくなった。

メールなら・・・メールなら邪魔にならないよね

【 まだお仕事中ですか?
 実は今日、家に帰ったら祖父と祖母がボイスレコーダーのプロになっていてすごく驚きました。
 この分だと明日は大丈夫そうです。ちょっと安心しました。
 おやすみなさい 聡示さん 】

「おやすみなさい、聡示さん・・・」
言いながら、上総はメールを送信した。

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