星空に触れて-114-

水曜の朝。
上総は重い瞼を開けて体を起こした。
数時間ほどの睡眠では物足りなかったかれど、今日はやっておかなければならないことがある。

明日、時田がやってくるまでに・・・。

着替えを済ませて食卓へ向かうと、もう祖父母は席についていた。
「かずちゃん、おはよう」
いつもの柔らかい笑顔に、張り詰めた神経が少しだけ宥められる。
「おはよう、お婆ちゃん」
笑顔で返して席に着いた。
「ご飯が終わったら、お爺ちゃんとお婆ちゃんに聞いてもらいたい事があるんだ」
あまり驚かさないように伝えて、いつものように朝食を摂った。

「弁護士・・・?」
「そう。今度の事をね、弁護士さんに相談してみたんだよ」
上総は藤堂と話し合った内容をなぞるように話を進めた。
祖父は驚いたが、そのまま上総の話に耳を傾けている。

「それでね、やっぱりおかしいんだって。時田っていう人がやってること。そういう風に一方的な話をするのもそうだけど、変な人も連れてきたし」
「でもかずちゃん・・・」
祖母が心配そうな声を出す。
「大丈夫。弁護士さんが言うにはね、怖がってばかりで何も言わないと良くないんだって。『嫌だ』とか『無理だ』とか、そういう受け答えばっかりだと、結局、相手と同じで何の話し合いにもならないって」
「むぅ・・・」
腕組みをしたままで、祖父は渋い顔をした。
「その弁護士さんが、もう少し詳しい状況を知りたいって言うんだ」
「弁護士の先生にお願いするの?」
祖母が一段と不安な顔になる。
「ううん。正式な依頼をしたんじゃないんだ。だからお金は掛からないよ。ただ、アドバイスはしてくれるっていうから、やってみたいことがあるんだ。どうかな?」

ここまでは、藤堂のシナリオどおり。

「それで、何をするんだ?」
祖父が口を開いた。
「やるのは、多分・・・僕じゃない」
上総は下腹に力を込めて言った。
「どういうことなの?」
祖母が上総の手を握ってくる。
「次に時田さんが来るときは、また僕が居ない時だ、って弁護士さんに言われたんだ」
祖母が小さく息を飲んだ。
「最初から話し合いなんてする気が無いんだから、そういう事を調べてからやってくるだろうって、言われたんだよ」
上総がそこまで言ったところで、祖父が大きな溜息を吐いた。
祖母も俯いて、何も言わない。

「僕はね・・・。もう大学も辞めるって決めたし、働くのも嫌じゃないよ。でも、もしその前に出来る事があるんだったら、やっておいた方がいいと思うんだ。それで何かが変わることが無かったとしても・・・」
上総は、祖父に祖母に自分自身に言い聞かせるように告げた。

「お爺ちゃんかお婆ちゃんが、やれば良いのね?」
伏せていた顔を上げた祖母が言った。
「お婆ちゃん・・・」
祖母は先ほどの動揺が嘘のように穏やかな顔をしている。
「かずちゃんだけが大学を辞めるのは、不公平だものね」
そう言って、祖母は祖父を見た。
「そうか・・・。分った、何をすればいいんだ?」
祖父の声も覚悟が決まっている。
「お爺ちゃんもお婆ちゃんもありがとう」

同意を得ることができた。
あとは、段取りを話すだけ。
「その前に、見積もりを見せてもらいたいんだけど。FAXしたいから。」
「その弁護士に送るのか?」
祖父が戸棚を開けて見積もりを探しながら聞いてくる。
「あ・・・うん。金額も見てくれるって」

藤堂さん宛てって事でも・・・あまり問題はないよね
受け取った見積もりを、上総は甲斐に渡された番号へ送信した。

「それで、やることなんだけど・・・」

上総はポケットからボイスレコーダーを取り出して、藤堂から言われたことを話し始めた。

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