星空に触れて-111-

窓の外を流れる景色を見ながら、上総は少しずつ自分の現実を取り戻していった。
僕がやらないといけない。

今日は水曜日。
真島の調査結果どおりなら、木曜日、また時田がやってくる。
藤堂に言われたことを何度も頭の中で繰り返した。
渡されたボイスレコーダーの存在を、ポケットの上からそっと確かめる。
木曜には上総が居ないことがすでに知られていた。
『これが時田のやり方です』 藤堂の落ち着いた声が思い出される。

不安が無いと言えば嘘になる。
自分のやること1つに、家族の今後と野崎や真島達のこれまでの努力の積み重ねの結果の如何が掛かっているのだから。
上総は膝の上に置いた自分の拳を眺めた。

「上総」
ちょうど信号が赤になっていて、野崎がこちらを向いていた。
「大丈夫。やれるよ」
左手でそっと上総の肩を撫でてくれる。
「はい・・・」
今の上総には野崎の存在が何よりも心強い。
「どちらにしても、社内の調査はまだ残ってる。これで全てが決まる訳じゃない」
安心させるように頷いて、野崎はまた車を走らせた。

上手く出来なかったとしても、おそらく野崎や真島は責めるような事は言わない。
それでも、自分自身の問題として、出来る限りの事をする決心をした。
大丈夫・・・。
上総は野崎の声に重ねるように、心の中でつぶやいた。

やがて車は見慣れた路地に近づいていく。
「この辺りでいいです」
初めて送ってもらった時と同じ場所で声を掛けて、ポケットの鍵を探った。
野崎はウィンカーを点けて車を寄せる。
「真島が言ったとおり、本当はこちらで解決できるはずだった。こんなことになって・・・」
野崎が苦しい思いをしていたことは、もう十分理解できた。
だからもう、そんな顔をしないで欲しい。

「僕は、これで良かったと思ってます。何もしないで終わってしまうより、よっぽど良かったです」
今は、ただ前に向かっていけばいい。
何よりも、野崎のことを失わずに済んだ。
「電話していいから」
「はい」
「終わったら、連絡して」
「はい・・・」
「上総・・・」
野崎の声に引き寄せられて、触れるだけのキスをする。

「じゃぁ・・・僕帰ります」
名残惜しい気持ちを抑えて、車を降りた。
ウィンドウが下げられて、野崎が顔を覗かせる。
「気をつけて。連絡待ってるから」
上総は笑顔で応えて、見えなくなるまで車を見送った。

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