星空に触れて-106-

応接セットに座る二人には、ここからは声は届かない。
それでも恋人達はそっと声を潜めて心を通わせる。

「諦めるなんて、言わないよね?」
「・・・・・・はい。そのためにも、僕、頑張ります・・・」

何も諦めず、誰も傷付かずにあの3人の穏やかな生活を守る方法があった。
それを用意してくれていたのは、野崎だった。

時田と同じ会社の人間だったというだけで頭ごなしに疑って、もう忘れてしまおうとまで思っていたのに、
それでも野崎は待っていてくれた。
幼稚で浅はかで、自分勝手な考えしか持てなかった自分のことを、呆れもせずに・・・。

「ごめんなさい・・・、聡示さん。疑ってたんです。僕、酷いですよね・・・」
ようやく許しを請う言葉を伝えることができた。
勢いにまかせてここまでやって来て、本当は最初に伝えたかったこと。
出逢った頃から事あるごとに与えてもらってばかりの自分が、とても恥ずかしく思えてくる。

「あの状況で、上総は疑って当然だった。真島が言ったとおりだよ。全部、僕のせいなんだ」
『恋人にこんな思いさせるなんて、僕こそ酷いもんだ』 そう続けて、野崎は少年のように微笑んだ。

与えてもなお、野崎は上総に苦しみの1つも負わせようとはしない。

「僕・・・。僕、聡示さんに、何かお返しできませんか・・・?」
一人で家族を支えることもままならず、野崎を信じぬくことさえ出来なかった自分に、いったい何ができるのかは検討も付かないけれど。

何かできるなら、教えてほしい。

「君を抱きしめたいんだけど・・・、良くないよね」
野崎が目線を模型に向けてサラっと言った。
「・・・ぁっ・・・あたりまえです・・・」
同じように模型に向き直って、ぽそぽそと上総が答える。

「金曜日、必ず迎えにいくから。待ってて」
野崎の声が、少しだけ深く、強くなる。
「・・・はい、待って・・・ます」
上総はシャツの裾をぎゅっと握り締めて、またぽそっと答える。

ちらりと遠慮がちに野崎を見上げた上総の目は、少しだけ潤んでいた。

「やっぱり・・・、抱きしめたいんだけど、良くないかな?」
いつもにも増してカッコいい顔をして言う野崎から、上総は慌てて視線を逸らした。
「っ・・・だめですよ・・・聡示さん」
上総は裾を引っ張ったり離したりして落ち着かないでいる。

今度こそ本当に、恋人同士の絆で心が繋がった。
二人の間に空いているたった半身ほどの距離がもどかしい。

聡示さんがカッコいいから、いけないんだ・・・。

上総は、今にも野崎に吸い寄せられてしまいそうな身体を留めようと、シャツの裾を掴んで耐えていた。

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