星空に触れて-99-

もう傷つけたりはしない。
小さく身体を縮めて泣き濡れる上総など、二度と見たくない。
自分の知らないところで一人寂しく悲しみに暮れるような思いは、もうさせない。
野崎は一人心の中で固い決意をしたためた。

大学を辞めると言って、肩を震わせて、全身で憤りをぶつけてくるほど苦しんでいたというのに、
今は全てを受け入れて同じ気持ちでいてくれている。
直接的にも間接的にも上総の心に与えてしまった苦痛を思うと、
自分よりも一回りも二回りも小さな上総が、大きく神々しい存在に思えてならなかった。

野崎は上総と初めて交わす 深いキスを心行くまで味わって、どこまでも心が満たされていた。
想い人に、想われる。
それが これほどまでに心を震わせる喜びを産むものだとは、この歳まで知らなかった。

鼻先が触れ合いそうな距離のまま、そっと話しかける。
「今日、真島に会ったんだね?」
左腕で上総の肩を抱きしめたまま、野崎は右手を柔らかい髪に潜らせた。
「ぇ・・・ぁ、はい・・・」
ぱたぱたと何度か可愛らしく瞬きをして、上総がぽそっと答えた。
「そうっか・・・。じゃぁ、そろそろ来るかなぁ・・・」
野崎は優しい眼差しを上総に向けたまま、ゆっくりと髪を梳いた。
時折、髪型を整えるように、手でくせを付けようとする。
「ぇ・・・?」
首をかしげて野崎を見上げる上総に、野崎はにっこりと微笑む。

「いい歳した恋のキューピットに会えるかもしれないよ」
『ちょっと嫌味なヤツだけど』 そう囁いて、野崎がドアの方を向いたのと、ドアが勢い良く開けられたのは、ほぼ同時だった。


「よーし君たち、良い度胸だ。
この俺様からの忠告を二人して破って、こんな夜中にこんなところでデートに勤しんでいるとは何事だ!」

張りのある大きな声で告げた後、その人はオフィスの照明を点けた。
突然、光に照らされて、野崎と上総は瞬きを繰り返す。

「っ・・・真島、さん・・・?」
照らし出されたその人物は、昼間上総がグラウンドで会った、その人だった。

ネクタイを後ろへ回し、襟元のボタンを2つ開けて、シャツの袖を肘まで折り上げた真島は、片脇にこぼれそうなほどの資料を抱えて、ニヤっと笑いながら仁王立ちしている。

目次へ...

Leave a comment

Private :

Comments

- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -
12 02